お疲れーっ!

       

 久々に栄に出ただけでクラクラする。

 正直に書こう。聴きに来て下さった方には申し訳ないが、昨日のコンサートの出来は、ちっとも良くなかった。

 夫は本番前、「オレは今日は一発勝負だから。」と言っていたが、私には何のことか、まったくもって意味不明。というのは、昨日の曲は全然知られてない曲で、じつを言うと、私は昨日の本番で聴くのが初めてだった。(で、たぶん最初で最後。)私の座っていた席のすぐ近くに、ドイツに長く居た先生が聴いていらしたから、ドイツではよくやる曲なんですか?とお訊ねたら、「オレ、今日のゲネプロで初めて聴いた。がっはっはっは。」とおっしゃった。そんなわけで本番を聴いて、初めてわかった。たったこれだけか、ということが。ほんとにたったこれだけのために、何日も前から、日に何時間も合わせる必要があったのだろうか。練習が長すぎて、夫の場合は、それがあきらかに集中力を欠いたと思う。
 そして夫の言葉どおり、歌は本当の一発勝負であった。ウォーミングアップなしに、いきなりの100メートル全力疾走を課せられたような歌だった。で、すべっちゃった。別の選手も最後の最後でひっくり返った。がしかし、一発勝負とはほんとによく言ったもので、その後名誉挽回できる場面はどこにもなく、ただ終わった。アハ、アハ、アハハハ・・・他の人のパートが朗々と歌い上げるメロディーだったのに対して、夫のパートだけテンポが速いうえに極端に言葉が多すぎて、損な役どころであったとも思う。「でもどうせ元々の音楽知らないからさ、みんなわかってないよ、それにあそこのホールは、アラを隠してくれるしね。」と、傷心気味の夫をムダに励ます。
 87歳のおじいちゃん指揮者はよくがんばったと思う。座らずに振ってて大丈夫かな、と心配してたけど。本番前のゲネプロもずっと立ちっぱなしで振ったらしいのだ。
 だけどいかんせん、87歳にはやっぱり音楽を引っ張っていくパワーはなかった。その足りない分を、演奏する側がカバーしようとしていたようにも見えた。継続は力なり、というが、引き際の良さも肝心、と私は思う。
 家に帰って、「その楽譜は二度と目に触れない、奥の奥の奥〜のほうに葬っておいて。」と夫。そうだ、自分の領域を固めることだけに専念しよう。あっちもこっちも手を出せるほど、人生は長くない。