cucciolo ツアー

 今日もひきつづき、腰痛の大患者なのだった。
ギックリ腰はしかし、動きは不自由で、寝起きのときに激痛を伴うが、あとは身体のどこも悪くないので(毒舌も健在!)、昨日からほとんど寝たままの状態なのに、あまり精神的にはまいっていない。
 でトスカーナの本を、横になったまま読んでいる。この間のコンサートを企画をしてくださったTさんから、みんなでイタリアに行く話はどうなったのか、と訊かれたのだ。
 Tさんは夫の大学時代の同期生で、名古屋ではちょっとした有名人(?)だ。彼女の人脈や、人からの信頼は素晴らしく厚いもので、私たち夫婦も彼女のことが大好きだし、あの人が言うことならぜったい間違いない、というくらい、盲目的にTさんを信用してしまっているところがある。
 Tさんはまた、大変な旅の達人でもある。おそらく世界各地を旅することで、Tさんの懐の深さ、人としての大きさみたいなものがつくられたのではないか。たしかシベリア鉄道を全区間乗って、ヨーロッパを目指すような旅をしたり、東欧のどこかを旅行中、ローマにあるカラバッジョの絵が素晴らしいから、と耳にして、突然ローマまで足をのばしたり、フツウでは考えつかない旅をやってのける。ヨーロッパに限らず、アジアはほぼどの国も、はたまた南米からアフリカまで、世界中を歩いた人だ。
 そのTさんが、イタリアに行く話はどうなってるの?と、コンサートのあとの飲み会で訊ねてきた。ギクッ・・・
 もう何年もまえから、イタリアに仲間たちみんなで行こうじゃないか、それには私たち夫婦が先頭に立って、計画してもらわないと、とTさんから言われているのを、人と一緒に行動することが大の苦手な夫と私は、のらりくらりとかわして年月が経っているのだった。
 イタリアのどこか、という話が、コンサートの日には「トスカーナに3泊4日」と、かなり具体的な案になってTさんの口から出たので、少々慌てた。「3泊4日なんて、そんな短い時間じゃムリでしょう。」と、企画倒れの方向に私が話を持っていくと、いや、どこかで集合して、3泊4日だけみんなで過ごして、あとは解散、その前後は自由にしよう、とTさんが言った。さすがに行きから帰りの飛行機までみんなで一緒の旅は、実現しようもないと思ったらしく、彼女も現実味を持てる計画に変えてきたようだ。
 「たとえばフィレンツェのドゥオーモの下で、とか、ポンテ・ヴェッキオの橋の上で、何時に集合、とかにして、それからどこか、町からはなれた、トスカーナの丘の見えるペンションか何かを、みんなで借り切るの。ぜったい丘が見えないとダメよ。あとブドウの状態が良くないといけないから(ワイン目当てか?)時期は9月ね。」とか何とか、ほとんどTさんのなかではもう、トスカーナの丘や、ブドウ畑の景色までが広がっているようだった。
 だからこの計画実現に向けて、アクションを起こせ、と私に言うのである。面倒くさいなあ、そんなの・・・と正直その場では思ったのだったが、あれから何日か、ベッドで横になりながら、にぎやかしくみんなで食事したり、あるいはひとり気ままに昼寝をしたり、のんびり散歩をしたりするトスカーナの休日を想像すると、それも悪くないかなあ、なんて思いはじめた。
 すっかりその気にさせられてしまった自分がおかしいのと、やっぱりTさんの人を動かす力ってすごい、と思いつつ、旅行雑誌のページをめくるのである。