ネーミング

 イタリアの豪華客船には、わたしゃ、ぜったいに乗らんぞ。

 ニュースを見てたらアナウンサーが、「あの、逃亡船長の会社の船が・・・」と言った。逃亡船長って・・・ま、たしかにそうなんだけど。

 乗客を放っておいて逃げたから、逃亡船長と呼ばれるようになったようだ。日本人は、こういう風に名前をつけるのが好きらしい。ずーっと昔、テレビで騒がれていたのが、心無い人に放たれた矢が身体に刺さっていた、痛々しいカモ。いつの間にか、「矢ガモ」と呼ばれるようになったことに、当時の私は違和感を覚えた。つい何年か前には、どういう理由でだったか、崖の斜面みたいなところで何日も動けなくなっていた犬が注目され、いつしか「崖っぷち犬」と呼ばれていた。

 と、まるでこのようなネーミングの仕方を非難しているような私だが、あまり偉そうなことは言えない。

 近所にすごく性格の悪そうな犬がいる。どんな風かというと、その犬はパピヨンで、家の中で飼われているようなのだけれど、窓の外をいつもエラそうに見張っている。その窓の外には、同じお宅で飼われている老犬がいるのだけれど、その子がまた気の毒なくらい汚れていて、いつも哀れな声で啼いている。少し認知症も始まっているのか、鎖につながれたまま、よくグルグルその場を歩き回ったりしている。何不自由なく暮らし、実に恵まれた生活を送っているように見えるパピヨンの環境とは、いろんな面で扱いが雲泥の差。しかもパピヨンの窓から外を眺める様子は、優雅であるがゆえに感じ悪く、まるで暖かい家の中から、外の老犬を見くだしているかのような、余裕の表情にも見受けられるので、私と夫はこのパピヨンのことを、「勝ち誇り犬」と呼ぶようになった。
 しかし通るたびに毎回、「勝ち誇り犬」と呼ぶのはちと長すぎるので、いつの間にか単に「ホコリちゃん」と呼ぶようになった。