Mr.Cold

cucciolo-mayu2009-03-19

      
 吾が輩は、ソープディスペンサーである。名前はまだない。
 いや、うちでの呼び名が決まってないだけであって、れっきとした商品名はついている。Mr.Cold ミスター・コールド、Alessi社の製品だ。
 かなり前になるが、ある料理研究家の方の、素敵なお宅を紹介する番組を観ていたときだった。使い込まれ、そのうえ見事に磨きこまれたキッチンの片隅から、視線を感じるのだ。なんだ?あの顔は?!気の抜けたというのか、やる気がなく、覇気のないやつ。どうせボクなんか、という言葉がおそらく口癖の、人間ならばお付き合いするのはちょっとゴメンこうむりたいタイプだ。
        
 その料理研究家の方は、「味というのは、自分は、6割がたは香りにあると思っているので、(私もその通りだと思います。)調理道具を使ったら、匂いが残らないように、きれいに洗い、清潔に保っておくことはとても大切なことですよ。」と力説しておられた。その為には、スポンジなんかで取れない汚れには、ほら、どうですか、ブラシを使えばこんなに簡単に汚れが落ちるんですよ、と言いながら、コールド氏の頭を2,3度プッシュして、ブラシに洗剤をつけ、木べらをゴシゴシと洗って見せてくださっていたのだが、私は話の内容よりも、コールド氏の顔に釘づけになっていた。
 鳥のようで鳥でもなさそうだし、いったい何の動物なのかわからないが、ちゃんと人格を持っていそうな、(人でないから人格ではなく、何格だ?)不機嫌さがとても気になり、この顔のことはずっとひっかかっていた。
 先日、クレジットカードのポイントが少したまったから、何かプレゼントをもらおうと思い、そのカタログをめくっていたときだ。
「あ、あの顔!!」テレビで観て以来だった。このヘンな顔ディスペンサーが、Mr.Coldという名前で、あのAlessi社の製品だと初めて知った。
 こうして我が家に届いたコールド氏。なぜミスター・コールドなのか、そして何より、どうしてあんな顔をしているのか、手にしてみてすぐ分かった。
 彼は頭を押されると、鼻水がたれて仕方がないのである。風邪をひいているがゆえの、トロンとした目つき、なんともつまらなさそうな表情なのだった。
      
彼の気分はすぐれないままだが、私は長い間のナゾがとけてスッキリした。答えが分かってしまえば、私の疑問は、探偵ナイトスクープに依頼しても採り上げてもらえそうなネタであった。
 それにしても気の毒な話である。これからもずっと、治る見込みのない、タチの悪い風邪をひいているのである。この顔を見て、こちらの気分まで重くなったとしても、よしよし、と、優しく介抱してあげなければならない。これから毎日キッチンで、この顔と暮らしていく覚悟を決めたcuccioloだった。