フィレンツェの、幸せな紙屋さん

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 フィレンツェの観光名所、ポンテ・ヴェッキオ。この橋のすぐちかくに、とても素敵なお店をみつけた。

古い橋、という、「それだけ?」な意味のポンテ・ヴェッキオは、橋の両脇に貴金属店が軒をつらね、いつも橋をわたっている、という感覚が持てない。とにかくいつ行っても観光客でごったがえしているので、さっさとわたってしまいたくなる。

 町の中心シニョリーア広場側から、このポンテ・ヴェッキオをわたってすぐの通りを、右に曲がろう。通りの名前は、Borgo San Jacopo。ほんの1,2分歩けば、道の右側に、包み紙やらきれいな紙製品の飾られた、ウィンドーがあるはず。このショーウィンドーに、お店の名前がFantasie Fiorentineと書かれている。

お店の入り口は、さらにこのウィンドーから右に入ったところ。ドアが半開きになっていることろがそうだ。ドアを開けて、階段を3,4段降りて、半地下のようなお店に入る。

 照明のせいだろうが、オレンジ色っぽいオーラの店内。とっても小さいお店のカウンターに、小さいおばあさんが一人立っていて、入ってきたお客をちらっとは見るが、カウンターのうえで、ずっとなにか手を動かしている。
どうやら、棚にディスプレイされた、鉛筆立てや写真立て、とても小さな、アクセサリーしか入らないような紙の箱など、どれもこのおばあさんの手作りのようだ。品数はそう多くないが、すべてとてもていねいに作られた、おばあさんの、紙をいとおしく思う気持ちが染み付いているような小物ばかり。


 私が店内をゆっくり見ている間も、紙の束を取り出して、丸まった紙を平らにのばして作品の準備。お客がいようがいまいが、あまり関係ないようだ。たぶん、売れても売れなくても、彼女にはそんなこと、どうでも良いことなのだと思う。ただ、ちまちまと、大好きなきれいな紙を使って、うつくしい小物を作り出したい、それが私のやりたいことだから。ま、それを買ってもらえたら、そのほうがうれしいけどね。たぶん、そんな風に思って、いつも手を動かしている。

 ああ、私もこうなりたいのかもしれない、と思った。紙細工がしたいんじゃないですよ。自分が一番幸せだと思える状態、というか理想みたいなものは、このおばあさんのように、自分がしたいこと、大好きなことを、人のことは気にせず、評価などもどうでもよく、(評価されればそれにこしたことはないが。)ただ時間も忘れてやっている、そんな状態。このおばあさんに、プロ意識とか、職人気質とか、そういう気負いみたいなのが全然感じられなかった。そのことにすごく感動してしまった。ただあの小さな半地下の穴ぐらの中で、ずっと何十年もこうして紙に触れてきたのだと思う。そんなふうになるのは、意外と難しくないのではないか?自分のへんなプライドとか、自意識とかを捨てて、ただひたすら好きなことに没頭しとけばいいんじゃないか、そう思った。

 おばあさんのお店で、小さな箱や三角のしおりを買いました。しおりはとても使い方がナイス!折り紙で作る、かぶとのように開くので、本のページの角を、三角の中に入れてブックマークになるというもの。オペラの楽譜に挟んだら、やっぱりイタリアもの同士だからか、ぴったり合った。

 このお店のななめ向かいに、高級ホテル、ルンガルノの入り口がありました。あのフェラガモグループの経営するホテルです。場所がわからなかったら、ホテルルンガルノはどこですか?と聞いたほうが早いかもしれない。
 さらにこのホテルルンガルノ入り口のすぐ先はアルノ川に面していて、ここからポンテ・ヴェッキオがすごくきれいに見えました。写真撮るのに、おすすめのスポットです。