夕刻の影

      

 ヴォルテッラの町へは、フィレンツェからバスで2時間ほど。
 Volterra ヴォルテッラの町の名が、私には、volare空を飛ぶ、という言葉と、土地を意味するterraが組み合わさって出来た地名のように思えて、(この解釈であってるかどうかわかりません。)空飛ぶ大地、つまりとても高ーいところにある町のイメージ。行ってみると、ほんとにそのとおり。雲が下に見えそうな、とても見晴らしの良い町でした。
 
 イタリアの歴史を語るとき、いつも古代ローマから始まっちゃいますが、ローマ時代の前にはエトルリアの文化が栄えた時代があって、ウンブリアやトスカーナには、エトルリアを起源とする町がたくさんあります。このヴォルテッラもそのひとつ。
 
 町のなかに、グアルナッチ・エトルリア博物館というのがあり、この周辺で出土した、エトルリアやローマの時代のなんやかんやが展示されているそうです。が、私たちは、よほどの興味をそそられない限り、こういった博物館や美術館に足を運ばない旅なので、この博物館も素通り。

 そのエトルリア博物館にある(らしい)、有名な「Ombra della sera」夕刻の影、と名づけられたブロンズの彫像。

 スラリとのびた姿は、たしかに、夕刻の影のよう。この名づけ親が、あの詩人、ダンヌンツィオだというのだから、その言葉のセンス、感性の豊かさに、うーん、とうならされます。

 私、なぜかわからないんですが、この彫像のこと、「夕刻の影」というネーミングも何も知らなかったのに、すごく見覚えがあるんです。友達の家に飾ってあったような、いや違うかな・・・とにかくこの町に着いてすぐ、この彫像がヴォルテッラのものだったと知り、買う!と決めました。

 小さな町は端から端まで歩いてもあっという間。ぷらぷら歩いてると、一軒のブロンズのものばかりを作る工房兼お店がありました。

 おじさんがひとりで仕事しています。ここに来る前、フィレンツェの紙屋のおばあさんのことがあって、なんだかこういう風に自分の手仕事に取り組んでいる人たちをすごく応援したい気持ちになっていました。「夕刻の影」はぜったいここで買うことに決めて、昼ごはんを食べに行きました。(なんや?!すぐ買わんのかい?!)

 イタリアのお店は、お昼寝の時間はいったん閉まってしまうので(この辺は彼ら、キッチリしてます。)、夕方、おじさんのお店へ再び向かいました。

 小汚い(という言葉はあるのかな?)工房のなかは、作品であり商品であるブロンズの置物が、たくさん並んでいます。なんか、車とかバイクを直したりするお店に似たごちゃごちゃ感。意外とこういうの、嫌いではないです。作品は大きさもいろいろ。なかなか卑猥(?)な表現のものや、なんちゃってな夕刻の影もあって、これはエトルリアの時代のもののコピーではなくて、おじさんのオリジナルというか、ヴァリエーションというか・・・だと思います。
 その中で、ごくノーマルなものを購入。大きいほうが良かったんですが、なにせ旅行中なので荷物の問題もあり、小さいサイズのにしました。

 ちょうどいい箱におじさんがピッタリと収めてくれて、大事に持って帰り、家であけてみてびっくり!
 保証書みたいなのが入ってたんです。それに、Garanzia a vitaと書かれてありました。つまり、生涯保障、ということ。
この生涯、というのは、作ったおじさんが死ぬまで、あるいは買った私が死ぬまで、ということか、なんかよくわからないんだけど、そんなことはまあどうでも良くって、おじさんの仕事に対する熱い思いが伝わってきました。「(商品の)いかなる不足、欠如においても、生涯にわたって責任持ちます、欠陥があったら直接製作者がそれを直すのに従事しますし、もしくは契約しているお店から別のものを・・・」みたいなことが書かれてあり、裏には店の名前、住所、電話番号、ファックス、おじさんの直筆サインまでが入っていました。

 イタリア人ってすごいなあ。自分の仕事に恥じるところはまったくない!逃げも隠れもしません!みたいな、凛とした姿です。