いんちき商売

 私がイタリアの、ありとあらゆる生活や文化に憧れるのと同じように、ヨーロッパの人々は、行ったことも見たこともない東洋の果ての、日いづる国をすごくオリエンタルで、素敵なところ、と思っていたりするものである。
 その証拠に、道端で中国人が、イタリア人の名前を当て字のような漢字で書いてあげる、という商売をやっている。しかもそこには、イタリア人の取り巻きが出来ていたり、ということも何度か見かけるので、路上で行われている、(おそらく違法の)商売のなかでは、結構な人気があるのがうかがえる。
 私も以前、ローマのバールでお茶してるときに、(余談だが、お茶する、は日本的表現で、イタリアではカッフェする、が正しい。)そのお店でバイトしてる若い女の子に、「日本人だったら、ちょっと漢字を教えてくれないか。」と頼まれたことがある。たしか、マルコだったかはっきり覚えてないが、お目当ての男の子の名前を、例によって当て字で漢字で表すことと、per sempre という言葉の意味を、漢字でどう書くのか教えてほしい、ということだった。もしそれらの漢字を教えてくれたら、私の書いたお手本を持って、これからタトゥーを入れに行くのだ、と言う。per sempre は、永遠を意味し、つまり、「マルコ、永遠に愛してるわ。」と、腕に彫りたいらしい。
 私は、per sempre のほうは彫っても問題ないが、失礼ながら、マルコはやめといたほうが良いのではないか、と言った。これから先、マルコと彼女との関係が、それこそ永遠には続かないであろうと、彼女の年齢からして大いに予想できたためだ。もし、彼女が次につきあった相手がフランチェスコだったり、ステーファノだったりしたら、彼女の腕に、別の男の子の名前が彫られたのを目にする、フランチェスコやステーファノの気持ちはどうだろうか?ま、漢字で彫ったのならば所詮彼らも読めないはずなので、彼女が、「これは日本語でフランチェスコと書いてあるのよ。」と言ってしまえばそれで済むことだ。しかしそう言われたフランチェスコは、日本語になると、自分の名前もえらく短く書かれるものだなあ、などど思ったりするかもしれない。(マルコに私がどの字を当てたか覚えてないが、間違いなく3文字だ。たぶん「丸子」とはしなかったと思う。)
 で、この間の旅行中、とあるお土産屋さんで売られていたペンダント。
   
 左の、AMOREというイタリア語に、「志」という字があてられている。アモーレの意味はそう、愛。なんで「志」なのか。
右のAMICIZIA、友情という言葉には、私の読めない漢字がぶらさがっているが、「友」とするのが正しいだろう。
まだある。
   

次の写真、左、FELICITA'幸福がなぜか「貴」だし、FORTUNA幸運が、「美」になっていて、こちらの頭の中がごちゃごちゃしてきそうだ。
イタリア人の若いカップルは、お互いの愛を誓い、何も知らずに「志」というペンダントを贈りあうのだろうか?そう思うと、とても気の毒だ。
 こういういんちきな商売はいけない。しかし、読めない漢字もあるが、どれもそう字面の悪い漢字ではないので、悪徳商売、とまでは言えない気もする。