夏の引越し

       

 6月に入ったので、寝室を3階から1階へ移動した。とにかく暑いのだ、3階の寝室。

 家を建てるときは、まさか夏用の寝室にするつもりなどなく、何となく1階の北側に和室を作ったのだが、本当に助かった。どんなに熱帯夜であろうと、クーラーをつけたまま寝るなど、歌う者にとっては自殺行為なので、毎年6月を目安に寝室を変え、夏の間はこの和室でクーラーなしで寝る。なので冬の間、物置と化していた和室を片付け、(その代わり、今度は3階に物置ができた。)ちゃんと住めるようにした。(←夫が。)ベッドから布団の生活になるので敷布団を干したり、寝具を整え、(←夫が。)掃除機をかけ、(←夫。)すだれも取り付けた。(←最後も夫。お疲れ!)
 窓を開けて座ってみる。風が通り、いつもより目線が低くなると、なんか気持ちが落ち着く。畳の部屋もいいものじゃな、と、私のDNAが喜んでいる。
 その和室のすぐ裏庭に、ちょうど紫陽花が咲き始めた。イタリアにも紫陽花はあるけれど、梅雨がない。日本で雨の日に咲いている紫陽花のほうが、ずっと情緒があると思う。
 紫陽花のイタリア語は、ortensia オルテンシア。これに冠詞のLがついて、L'ortensia ロルテンシアと発音する。(正確には、ロルテンスィアだ。)住んでいたアパートの庭に紫陽花が咲いていて、大家さんが教えてくれた。発音が難しい。滑らかにLで始まって「ロ」と言ったと思ったらすぐにRで舌を巻き、次にまた子音のTがつづく音の響きと、舌の感触がおもしろくて、一人で何度も練習していた。