夏のサラダ

 

この間テレビを観ていたら、トマトと一緒に食べないほうが良い野菜は何でしょう?というクイズが出され、その答えがきゅうりだったので、残念と思ったのです。きゅうりの持つ酵素だか成分だかが、トマトのビタミンCと壊してしまうので、せっかくのトマトの栄養がもったいない、ということでした。でも酢であえたりすれば、このきゅうりの働きは止められるとか。
 残念と思ったのは、私の定番、夏のサラダというメニューが、トマト、きゅうり、たまねぎで作るものだったからです。だったらあのサラダ、もうあんまり作れないじゃん、と思ったのだけど、ビネガーであえるから大丈夫か、とホッとしたり。
 このサラダを知ったのは、アマルフィの小さなレストランでした。有名なアマルフィのドゥオーモの入り口へあがる、長い階段はのぼらずに、その階段の手前を左奥に入っていくと、Chiostro キオストロというレストランがあります。ここのレストランで、ミックスサラダを注文して出されたのが、トマト、きゅうり、たまねぎのサラダ。一緒にあえてあるオレガノがアクセントになって、とても美味しかったのです。 イタリアきってのリゾートとして名高いアマルフィ。今、ちょうどアマルフィという映画で、日本では脚光を浴びている場所ですが、お願いだから、「アマルフィー」とのばして発音しないで。夏の強い日差しが照りつけ、海も、街の色もまぶしいほどに鮮やかな、饒舌なアマルフィではなくて、私たちが訪れた12月は、海からの強い風が冷たくて、どことなく寂しくて、街の印象もブルーグレーで残っています。
    

 なのに、このレストランでこのサラダを食べたとき、夏の味がする!と思ったのでした。お店の奥さんは、少し足が悪いようでしたが、フロアを行ったりきたり、一生懸命働いています。笑顔をたやさず、メニューのことを訊かれたら、どんな料理か、とても親切にていねいに答えてくれます。他のお客さんにも、「ぜひ、うちのサラダを、味わってみてくださいな。」とこのメニューを勧めています。うちのサラダ、と言ったところがいいな、と思ったのでした。お店自慢のサラダだと知りました。手間暇かけて作ってうやうやしく出される料理ではなくて、シンプルこの上ない、野菜の味そのものを味わうサラダを自慢にしているそのお店に、とても良い印象を持ち、二日間つづけて通いました。
 野菜の切り方は何でもかまいません。私もその店でどのような切り方で出されたのか、今では記憶になく、作るうちに自己流になっています。トマトはザクザク切って、きゅうりはイタリア風にするなら、皮をむき、切り方は乱切りでも、ぶ厚い輪切りでも。たまねぎは、私はスライスしています。これを全部一緒にして、塩、こしょう、エキストラヴァージンのオリーヴオイル(うちの母は、エクストラバージョンのやつ、と言います。どんなバージョンじゃ。)ワインビネガー、そして忘れてはならないドライオレガノをあえればできあがり。今日はバジリコもいれてみたら、もっと夏の味がしました。初めて食べたとき、夏の味がしたから、勝手に夏のサラダ、と呼ぶようになりました。そうしたらいつだったか、ジローラモの奥さんの料理本を見ていたら、「夏のサラダ」という名前でこのサラダがのっていたので、うわ、同じ!と思ったことがあります。ジローラモナポリ出身で、アマルフィもちかいから、このあたりではこのサラダ、わりとよく食べられるものかもしれません。彼女のレシピには、たしかセロリも入ってました。それもとても美味しいと思います。
 アマルフィには、やっぱり夏に行ってみるのが正統派なのでしょう。またいつか行くことがあるならば、ぜひ水着持参で。