この旅のお手本おばあさん

    

 今回はひどく時差ボケ。疲れているのに、昨夜はほとんど眠れなかった。朝方、新聞屋さんのバイクの音を聞いてから、やっとうとうとする。いつもはここまでしんどくないのにな。
 エレガントなトリノの街は、お洒落な人が実に多くて、ミラノなんかの比ではないと思う。ミラノとの決定的な違いは、町全体、人全体から漂う、生活水準の高さ。ぜったいにミラノよりも都会的だと、私は思ったけど。
 しかしそんな高級な雰囲気の街のなかでは、私が落ち着かないのも当然のこと。街の中心からポー川のほうに向かってのびるポー通りは、近くに大学があったりするせいか、値段も手頃そうなお店もたくさんあって、ああ、なんかここだとほっとするな、と思ったエリア。まったく余談だが、ポー川やポー通り、なんていう名前がついているから、モンゴル人のポーちゃんのことを、トリノの街で思い出す。「ポーちゃん、その後どうしてるかねえ。ポーちゃんってしばらく会ってないと会いたくなる人だよねえ。」と、ぜんぜん関係ないのに、夫とポーちゃんの話をしながらポー通りを歩く。
 ポー通りにかぎらずトリノの街中には、ポルティコと呼ばれる屋根つきの歩道のようなのがあって、雨の日でも濡れずにお買い物が出来る。トリノの街はたしかに雨が多いと思うし、冬は雪が降ったりするからじゃないかな、と考えたけど、違うかもしれない。
 そのポー通りのポルティコは、古本を売る露店が延々と続いていて、のぞきながら歩くと愉しかった。本屋が多いのはやっぱり大学があるから、かどうかはわからないけど。
      
 本の露店商とおぼしきおばあさんが、ポルティコの下の、自分のお店の隣でランチをしていた。ちょっとたまげるほど、堂々としたお昼だった。近くで買ってきたパニーノをほおばるというような簡単なランチではなくて、椅子にすわり、小さなテーブルには陶器のお皿にナイフとフォークがのっていて、ちゃんとティーポットでていねいにお茶を淹れているのだ。しかも歩道で、いろんな人が通る前で、である。私は感動すらおぼえて、しばらく見てしまったので、おばあさんはなんか文句あるか?というふうに、チラッとこっちを見やった。私もあんなふうに、一風変わっていても良いから、人にじろじろ見られても良いから、自分の世界に自信を持てるおばあさんになろうと思ったのだ。
 じつにエレガントで、シックなトリノの街では、マクドナルドですらこうなります。なんか文句あるか?