掃除魔

 クローゼットの整理も3日目に突入。と言っても一日中やっているわけではないからね。でも疲れる。やっと半分くらいはいったかなあ。
 やってるうちにどんどん掃除モードにはまってきた。いろんなところの汚れも気になりはじめた。クローゼットがまだ終わってないのに、押入れにも手を出し始めてしまった。一箇所ずついこう、一箇所ずつ。
 日本人の掃除ベタは、イタリアでは秘かに有名だ。家を貸したらぜったい汚れるから、日本人にだけは何があっても貸さない、という大家さんはわりと多い。あるいは週に二度、掃除をするメイドさんを雇うことを条件に貸す大家さんもいる。このメイドさんというのも、大家さん自身が選んだ、信頼のおけるこの人、でないといけない。このメイドさんの掃除はすごくて、週に二回、ベッドも家具も動かせて掃除をしていくそうだ。冷蔵庫の中の、悪くなったものを処分したりとか、霜取りまでやってしまってくれたり、とにかくそこまでやるか、という徹底した掃除らしい。
 私の大家さんはその辺はほかのイタリア人に比べたらおそらくおおらかで、日本人はきっちり滞納なく家賃を払ってくれるから、日本人にしか貸さない、という人だった。それでも自分の家のことはやはり気になるのか、ときどき用事を作っては部屋にやってきた。息子が熱を出したから解熱剤を分けてくれないかとか、いろいろな用事でやってきては、カーテンが汚れてきたから洗濯してあげる、と言ってカーテンをはずして持って帰ったり、カンデッジーナという、日本でいうところのキッチンハイターのような薬品を持ってきて、これを寝る前に、トイレの便器や、台所の白い石で出来た流し台に撒いて寝なさい、そうすれば翌朝には真っ白になっているから、とか、かなり立ち入ったことまでやられたこともあった。
 そのアパートの、真ん前のマンションの部屋に住むイタリア人の奥さんは、毎朝11時くらいまで、寝巻き姿のまま一心不乱に掃除をする人だった。家の中のことは見えないが、掃除の仕上げはベランダの雑巾がけだった。掃除にとりかかる前に、身支度を整えてはどうか、と思うのだが、彼女は自分のことより家のことが気になって仕方がないようだった。私は家にいる日はいつも、彼女の掃除を感心して眺めるのだった。
 それでかどうか、私も日本人にしたらわりと掃除はするほうだ。でもイタリア人の、彼らのやる掃除を思うと、いくらやってもまだまだ、と思う。