スズメと試験

 昨日、とある入学試験がおこなわれた。審査にあたる夫は朝から出かけ、試験会場となるボロいホールに到着すると、事務の方が、「あのー、先生・・・鳥がいます・・・」と言ってきた。
 どうやらスズメが入ってしまったらしい。ほかの先生方と、窓を開けて追い出そうとしたり、いろいろやってみるが出て行ってくれない。試験なので時間を遅らせるわけにはいかず、やむを得ずスズメのいるホールで試験がはじまった。
 受験生にとっては、大げさに言えば、一生を決めることになるかもやしれぬ入学試験であるが(かつての私もそれくらいの意気込みでのぞんだ一人だが、受験というモノほど、終わってしまえばなんてことなかった、と、気の抜けるものはない。)、スズメにはそんなことはおかまいなし。受験生が演奏するあいだ、ホール内を縦横無尽に飛び回り、あるいはその良くとおる声で、受験生などに負けてはならじと唄い、かなり好き勝手やったらしい。
 審査をする夫の頭めがけて低空飛行したり、いちばん厄介だったのは、受験生が歌っているステージの、それも受験生のすぐ足元、というところに着地し、チューン、チュンチュン、チュンチュン、と、これまたものすごく豊かな声量で鳴きながら跳ね回ったことだったそうだ。
 「しかもさあ、○○が歌っているときが最高潮でさー。」と、夫の生徒さんがいちばん被害をこうむったらしい。「よりによって、あいつの順番のときに、スズメがステージの上で、チュンチュンはねちゃって。」と、自分の生徒の不幸を気の毒がるどころか、家に帰ってもそのときの様子を思い返しては、大ウケしていた。
 結局、スズメは夕方の試験終了まで、ずっと居て、演奏に華を添えつづけたそうだ。そういう意味では、受験生はみんな同じハンディをあたえられながらの、じつに公平におこなわれた試験であったので、そのことでモンスターなペアレンツからクレームが来ることなどもないものと思われる。
 しかし目のまえでチュンチュンスズメが跳ねたら、歌えんぞ。