波長の合わない人

 その人は、たぶん昔から私とは合わない人だったのだ。その人と接すると、いつも何となく感じていた、イガイガした感じ。こちらに気に使っているように見せながら、しかし最終的には必ず自分の思い通りに事を運んでしまうその人のやり方は、乱暴なのではないかと、昔からどこかで気づいていながら、若かった私は自分のそうした直感を無視して、自分を殺し、ガマンした。若すぎて、そしておそらくは今の自分よりも少しは素直だったから、なるべく人のことを悪く思わないようにしよう、としていたような気もする。(今よりエライじゃないか。)
 十何年ぶりの、その人からの電話だった。話しながら、私は電話口で愕然としたのだ。流れた月日は、その人と私との間の溝を、決定的なものにしていた。あの頃、私がその人に対して感じていた直感みたいなものは、やっぱり間違いではなかった、と今ならはっきり言える。
 大人になるってこういうことだな。私は今でも優柔不断で、とても弱い人間だけど、それでもこの年まで生きてくると、もう昔みたいに、人に添って、あるいは沿って、生きていくなんてのは、人に飲まれるのはまっぴらごめん、と思えるようになっていたのだ。
 だけどどうも期間限定で、その人とは少しの間、お付き合いしないといけなくなりそう。それも大人の世界ではきっと出来ないといけないこと。会社に勤めてる人なんて、あの人は嫌いだから、付き合うのはイヤ、なんて言ってられないもんね。だから私も少しの間、会社員になったつもりで、でも昔とは違って、オカシイことはオカシイとはっきり言わせてもらって、お約束の日まで頑張るのだ。