おばちゃんを捜索

    
     
 京都の旅二日目は、たまたま東寺で開かれる終い弘法という市の日にあたっていた。べつにこれといってすることもない旅なので、午前中ここへ向かうことにする。
 がしかし、着いてみるとすごい人・人・人。人ごみが苦手な私たちゆえ、そそくさと退散。
 東寺を出てすぐのところに、バス停があり、行き先の表示を見ると、四条大宮を通るらしい。プーリアで知り合ったおばちゃんの店の住所が、四条大宮だったから、これまた予定のない旅なので、おばちゃんの捜索を開始することにした。
 バスを四条大宮で降りて、まずおばちゃんの本屋を探す。おばちゃんは本屋と、「きてや」という名前の居酒屋をやっている、と教えてくれていた。居酒屋は午前中はやってないだろうから、本屋の方に向かうことにする。
 一応来る前に、地図で場所を調べておいたのだ。地図ではわかりやすい場所だったので、安心して行ってみたら本屋さんなんかどこにもない。たしかに場所はこのあたりのはずなのに。ちかくに郵便局があったので、そこで訊くことにする。
 窓口のお姉さんに、「このちかくに、○○堂という本屋さんがあると思うんですが。」と訊くが知らないようで、奥で仕事している男性に訊きに行ってくれる。この男性職員は仕事そっちのけで、大きな地図を出して調べはじめてくれた。郵便局員の名誉にかけて、ぜったい見つけ出したいらしい。いつも私は郵便局員の働きぶりに対してイラつくことが多いのだが、この日の彼のように積極的にテキパキと働いてくれたら、もっと気持ちよく郵便局を利用できるのになあ、と思った。が、よく考えてみると、私が余計な相談を持ちかけたことで、本業の郵便業務はますますとどこおり、郵便局へ用事があってやってきた本当のお客さんは、私と働き者の(?)郵便局員のせいでイライラしていたのかもしれない。
 しかし、彼は私のところに「今年の地図」というのを持ってきて、「○○堂っていう本屋さんはやっぱり載ってないんです。この地図に載ってないということは、その本屋さんはもうなくなったんじゃないかと思います。」と言うのだった。そして、私が手にしていた紙に書かれた、もうひとつの居酒屋の住所と名前に気づき、「きてやさんやったら、この前の通りをずっとまっすぐいったところにありますよ。ま、この時間はやってないでしょうけど。」と親切に教えてくれたのだった。
 こうなったらもう居酒屋きてやに向かうしかない。閉まってたら、また夕方行けばいいや、どうせすることのない旅なのだし、というわけで、きてやに向かう。
 大きな通りだったのが、交差点を渡ったとたんに、狭くて下町っぽい雰囲気の道になった。しばらく進むと、道の左側に「きてや」はあった。さいわい戸口が開いている。中は暗いけれど、ごめんください、と大声をあげようとしたら、若い男の人が出てきた。
 「あのー・・・○○さんのお宅ってこちらですか?私、イタリアで旅行中に○○さんと知り合いになった、××と申す者ですが・・・」と言ってみる。おばちゃんの息子さんらしき男性は、おるかおらんかわからんけど、呼んできます、と言ってくれた。
 おばちゃんを待つ間、夫が「とりあえず、日本にはおるらしいな。良かったな。」と言った。そうなのだ。私が心配していたのは、おばちゃん、また旅に出ているのではないか、ということだったのだ。
 ほどなくして、おばちゃんが奥から出てきた。一瞬、私たちが誰なのかすぐにはわからなかったおばちゃん。アルベロベッロに行く電車で会ったの、覚えてます?と訊くと、「ああ、あの荷物をコロコロ引っ張ってた人!」と言って、私を力一杯、ぎゅーっと抱きしめた。