ヴェネツィア旅情

    

 ああ、2月も終わってしもうた。

 昨夜、ベッドに入ってから、そうだった、2月27日はFちゃんの誕生日だった、と思い出す。何日か前まではしっかり覚えていたのに、昨日は一日バタバタ用事をしているうちに、すっかり忘れてしまっていた。Fちゃん、遅くなってごめんなさい、お誕生日おめでとう。
    

 18年前の2月27日、Fちゃんと私はヴェネツィアにいた。ヴェネツィアのカルネヴァーレを観てみたい、と言って、40日にあまってイタリアをめぐる旅程のなかに、人でごった返すヴェネツィアを組み込み、やっとキャンセルが出て取れたホテルは、哀しいかな、メストレだった。(ヴェネツィアに入る前夜、たまたま取り出したホテルのクーポンを見て、どうやらヴェネツィア本島には泊まれないらしい、と初めて気がつくお粗末さ。)
 ホテル前には、運河ではなくて、びゅんびゅんクルマが飛ばす高速道路が走っていて、そのことにずいぶんショックを受けたものの、到着して空腹に耐えられなかった私たちは、そのままホテルのレストランへ。メインに何を食べたのかは覚えてないのだけれど、とりあえず付け合せに、くらいのつもりで注文した「本日の野菜」が、大きな皿にてんこ盛りにされた、にんじんのグラッセで、思わず二人共言葉を失った。あれほど大量のにんじんを目の前に格闘したのは、後にも先にもあのときだけだ。山盛りのにんじんを挟んで、お誕生日おめでとう、を言った気がする。
     
 そんなわけで、今日は朝っぱらから心はヴェネツィアなのだった。
 トーマス・マンや塩野七海さんによれば、ヴェネツィアは海から入るべき、なのだそうだが、現実にはなかなか難しいというか、列車でサンタ・ルチア駅に着いてしまって、駅を出たらもう目の前にはカナル・グランデが、というのが、大方の旅行者だと思う。
 そこで、前回はヴァポレットを、いつも乗客で混み合うリアルトやサン・マルコ方面へ向かうカナル・グランデを通るルートのではなくて、逆方向の、ローマ広場の方へ向かうのに乗ってみた。ジュデッカ運河に入り、たしかジュデッカ島のいくつかの停留所に停まりながら、海へと出れば、左手にサンマルコ寺院や、ドゥカーレ宮が、水の上に浮かんで見えてくる。(というのが一番最初の写真。すぐ上の写真は、ジュデッカにある、アンドレア・パッラーディオの設計した、レデントーレ教会。)トーマス・マンの、海から入る、というのとは、たぶんまったく逆方向からなのだけれど、そこはまあ目をつぶって、けっこう旅情満点だったので、時間がある方にはそんななんちゃって、なヴェネツィアへの入り方もおすすめしたい。
      

 あとヴェネツィアに行く前には、キャサリーン・ヘップバーンの映画「旅情」を必ず観ていってほしいし、行ったら、すごくおのぼりさんだけど、やっぱりカフェ・フローリアンでお茶してほしいと思う。