どたばた帰国劇 4

 私は、自分のことを決して運がいい人間だとは思っていないし、これまでの人生で、チャンスに恵まれた、と思ったこともほとんどない。しかし幸運に恵まれない人たちばかりのなかに入れば、自分はわりと運がいいほうかもしれないと思っている。まあ、ランクづけするならば、下の上か、良く考えて中の下、といったところか。だから今回も、この日空港に足止めされている、ほかの人の飛行機は飛ばなくても、私の乗る飛行機は必ず飛ぶ!と自分に言い聞かせながら、かれこれ3時間近く待った。

 そろそろお昼になるので、フィンエアーのカウンターにふたたび向かう。が、まだきっと中ではどうするのか、なかなか決まらないのだろう、誰も係の人は出てこなくて、みんなそのままさらに1時間くらい待たされる。椅子もないので、スーツケースに座ろうか。「きゃあ、私の体重だと、キャスターがつぶれちゃう!」と叫んでいる人も。
 ヘルシンキで乗り継いで名古屋まで帰る人は、私たち夫婦のほかに、6人組みで旅行にきた人たちがいた。「ヘルシンキで乗り換えの飛行機が、待ってくれてますかね?」「もし乗り換えの便が出たあとなら、別の便に乗せてもらえるんでしょうか?」と心配ごとは次々出てくる。「そうなると、席は足りるのかな?もう席の数の争いになったら、航空会社に情で訴える作戦でいくしかないですね。」と、6人のなかの唯一の男性が言うので、夫が、「それなら、親が危篤、このテでいくしかないでしょう。だったら申し訳ないけれど、皆さんはお友達同士のようだから、僕たち夫婦二人のほうが、話に真実味がある・・・席、頂いちゃうかもしれないですよ、アッハッハ。」 と勝ち誇ったように言いはなつと、男性は、「僕たちは、他人同士ですけど、偶然、苗字が同じ人が何人かいますから、そのときは親族でとおしますよ!」と応戦してきた。とてもくだらない、おっさん二人の架空の空席争奪戦が繰り広げられたが、そんなこんなで、私たちは、とても仲良しになった。

 やっとカウンターに若い女の人が出てきて座った。チェックインが始まった・・・ということは、やっぱりヘルシンキまでは飛んでくれる!!!
 さらに自分たちの順番を待つ。待っている間に、夫が、「オレ、昨日、フィンランドで1泊する夢、見たんだよなあ・・・」と縁起でもないことを言う。「でさ、フィンランドの空港のカウンターにいたらさあ、私も乗り遅れちゃったのよお!!って言って、和田アキ子が走ってきたんだよ。」という、しょうもない夢の話をしてくれた。
 私たちの前に、6人組みの人たちがチェックイン。私も自分のことのように、心配して見守る。あれ・・・?あれれ???おかしい・・・搭乗券が、一人3枚ずつって・・・どういうこと?
例の男性がNO!と叫ぶ。私も横から、「どういうことですか?」とカウンターの女性に訊くと、「だってあなたたちの乗るヘルシンキからの飛行機には、もう間に合わないんだから。」と言う。で、どうして3枚?と聞き返すと、「だから、ミラノからヘルシンキヘルシンキから香港、香港からキャセイパシフィックに乗って名古屋まで帰ってください。」と言われる。
 ここでも楽天的な夫は、「いやあ、香港経由とは、大変ですね。」というようなことをニヤつきながら男性に言ったが、私たちがもらった搭乗券も同じ、香港経由の3枚組みだったので、カウンターで、もっと他に選択肢はないのか?と必死で迫っていた。が、当然、ムリというもの。
 こうしてようやっと、長い長い旅のスタートラインに立てた私たちだった。