どたばた帰国劇 5

 そろそろこの話も佳境に入りましょうな。

 カウンターで受け取った搭乗券には、香港に到着する時刻や、最終目的地の名古屋に一体何時に着けるのか、といった時間的なことが空白のままだったので、そこら辺の情報を訊いてみたが、航空会社もパニくっていて、そんな細かいことまで知るか!と、あっけない対応をされただけだった。でも考えてみれば、対応してくれているのはイタリア人だし、そのときの空港の状況をみれば、やむを得ないことだと思った。仕方がない、ヘルシンキに着いた段階で、中学1年生も真っ青になってしまうほどの私のひどい英語力でもって、カウンターで訊ねてみよう。

 ミラノからのヘルシンキ行きは、結局14時発、となっていた。ということは・・・午後2時に空港閉鎖は解除されるということか・・・ほんの数時間の閉鎖時間に、自分のフライトがあたってしまうなんて・・・やっぱり私はものすごく運が悪い人間なのかもしれない。運気のランクは、下の中くらいに下方修正しほうがよさそうだ。
 
 そしてこのとき、チケットの搭乗時間を確かめると、13時20分となっていた。もう20分くらいしかないではないか!手荷物検査もしないといけないし!それより私は、こうして帰国が遅れたことで、帰った日の夕方に入れていたレッスンに間に合わないことに気がついた。急いで公衆電話を探し(携帯は持っていない。)、生徒さんの家に電話をかけ、電話にでたお母さんに、「あのー、申し訳ありませんが、明日のピアノのお稽古は、お休みにさせていただきたいのですが・・・」と、とても間抜けで、どう考えてもこの場にふさわしくない内容の国際電話を入れた。それも一方的にしゃべり、がちゃん!と切ってしまった。

 2時に空港が開いたからといって、ちょうど2時に飛行機が飛ぶなんてことはぜったいにありえないのがイタリアという国だが、、ひとまずここは言われた通りの時間に従ってゲートへ向かった。これで乗り遅れたら、マジでシャレにならない。

 案の定、ゲート前でしばらく待たされたのちに、もう1時間遅れる、という案内があった。ああ、こんなことなら急がなくて良かった。電話だってあんなに失礼なことにせずに、もっときっちり話せば良かった。

 カウンターでもらった朝食券でパニーノを食べてからも、すでに何時間か経過し、またおなかがすいてきたので、ホテルから持ってパニーノとゆで卵を食べることにした。夫は、一度ゴミ箱行きとなった塩をつけてゆで卵を食べ、私はわが身の安全を考えて、塩なしで食べた。

     


 結局、飛行機が飛んだのは、3時半ごろだったと思う。7時半にヘルシンキ着。ここから先は、予定どおりスムーズに旅は進んだ。ヘルシンキの空港に着いて、フィンランド航空のカウンターに行ってみると、乗り継ぎ時間や、日本の到着時間を教えてくれただけでなく、「これがあなたたちの、新しいフライトスケジュールですよ。」とあらかじめ用意してくれてあったのだろう、きちんと名前の入ったEチケットを渡された。さらには、「今回は長いフライトになって、本当にお気の毒です。」と、まるで自分たちのせいでこんな目にあってしまったかのような、とても気持ちのこもった言葉をかけてくれて、乗り継ぎの間に、免税店や、レストラン、カフェで使えるチケットまで渡してくれた。
 香港経由とは自分たちでは想像もしなかったルートだったけれど、あの時間の乗り継ぎで、一番早く日本の近くまで行ける、フィンランド航空の便が香港行きだったのだろうし、フィンランド航空と同じワンワールドグループのはずのキャセイパシフィックの席を手配してくれたのも、すべてこの航空会社おかげだと、今になってつくづく思うので(航空会社によっては、そこまでしてくれたかどうか・・・)、いろいろあったけれど、私はまた機会があれば、ここの飛行機で出かけたいな、と思っている。

   

 余談だが、フィンランド航空、機内食のパッケージや、紙コップひとつとっても、すっごくデザインされていて、とーってもかっこ良かった。疲れすぎて写真は撮っていないけれども、空港の免税店は、かっこ良すぎるもの、欲しいものだらけで、ちょうど免税店が閉まる時刻にヘルシンキに到着して幸いだったと思っている。

 こうして、たった32時間かけての帰国の旅は終わった。家に着いて、風呂に入って、べッドに横になり、あらためて思い返すと、「今、この時間にここで寝れるのって、奇跡だよね。」と夫と言い合った。

 今日もまた、ヨーロッパのいくつかの空港では、私たちと同じ目に遭っている人たちがいるようですが、自然のことゆえ、こればっかりは本当にどうすることもできませんよね。ひとつ忠告できることといえば、海外旅行保険に、こうしたスケジュール変更で別途必要となった、宿泊費、交通費、食事代などをカバーしてくれる項目があると思います。そこら辺をよく調べて、どうぞいつもよりも手厚い保険に入り、ある程度の覚悟のうえ、お出かけくださいませ。こうした経験も、過ぎてしまえば、良い思い出話となるものです。
 どうぞみなさまも、よいご旅行を。
 長きにわたる駄文にお付き合いくださり、ありがとうございました。