愛の小道

     

 いまや有名になりすぎた感もある、Cinque terre チンクエ・テッレ。世界遺産にもなっているこの場所は、海からすぐに切り立った険しい崖のようなところに、「5つの土地」という名前の示す通り、かわいらしい小さな5つの村が点在している。おそらくその不便さから、昔ながらの生活や、村独特のたたずまいがそのまま残され、その素朴さに多くの人が惹かれて、注目を浴びるようになったのだと思う。どの村へ行っても、平地とよべるスペースが見当たらない。人々はわずかな土地に肩を寄せ合うように家を建て、海岸線に面した崖の上に残った、ネコの額ほどの土地を耕し、ブドウを植えた。斜面なので土が流れないように石を積むがすぐに崩れ、崩れてはまた耕し・・・。チンクエ・テッレは、何百年にもわたる、この土地に住みつづけた人々の、気の遠くなるような苦労の遺産であることを、何よりも忘れてはならない、と思うのに、夏ともなればそんなことはお構いなしに、私たち現代人は、ズカズカと足を踏み入れる。

     


 チンクエ・テッレを何度か訪れたが、なぜか、この5つの村の中でいちばんメジャーで、宿泊施設もおそらくいちばん整っていると思われるモンテロッソ・アル・マーレだけを、訪れていない。なので、私がこれまでに制覇している4 terre(?)のなかでお話すると、いちばん景色が絵になると思うのは、ヴェルナッツァ。あそこはもう一度行きたいと思う。そして、一度歩いてみたいと思っていたのが、リオマッジョーレとマナローラの村を結んでいる、愛の小道。(名前だけで、こっぱずかしくなりますねえ。)

      

 リオ・マッジョーレには、とてもかわいい入り江があって、このときはここに船で到着。

 私はリオマッジョーレから出発したけれども、もちろん逆のマナローラ発でもいいわけですよ。海をのぞむ、それはそれは素晴らしい景色を堪能しながら、30分かそこいらの、とてもステキなお散歩ができる遊歩道が整備されています。それが愛の小道。ほんとは全部の村を歩ける道があるそうですよ。でもそちらを歩ききるには、それなりの体力と準備が必要なようですので、私のような軟弱者はやめたほうが良いかも。

 ここを歩いた日、リオマッジョーレに着くまでにあちこち行ってきたあとだったので、すでにほとんどのエネルギーを消耗していた私。愛の小道は、やめたほうがいいんじゃ・・・とも考えたけれど、あとで後悔するのもイヤなので、フォカッチャで腹ごしらえして出発することにした。(腰痛が悪化した今、やっぱりあのときムリしてでも行って良かったと思っている。)

 えーー・・・ただの道を歩かせてもらうだけに5ユーロ?!ちっと高くないか?(良くない観光地化の仕方 例1)ま、行くと決めたのだ、5ユーロ払って出発!

     
     


 なぜ愛の小道なのか、よくわかりました。ずばりあの絶景は、おばさん一人で眺めるものではないでしょう。どうかみなさんは、(できれば若くて)未来の明るいラブラブの時期に、大切な人と歩いてみてください。

     

 途中にあるポイントでは、鍵のかかった南京錠がいくつもぶらさがっていて、愛し合う二人の心にカギをかけましょ、うふっ・・・みたいな意味なのかなあ・・・とほとんど熱中症起こす寸前の頭で考えました。
(まったく関係ありませんが、同じ意味合いのものを、先月、なぜか大阪は通天閣の近くで見つけました。
↓↓↓ 南京錠がきれいに並んでしまっているところが、ニッポンですね。)
      

そこを超えて少し行ったところのバールで、氷を食べてクールダウン。(←大阪じゃなくて、チンクエ・テッレの話です。)もうダメ、私、愛の小道でのたれ死ぬかも・・・
ちなみにこのバールも値段設定がすべて高め。(良くない観光地化の仕方 例2)
      


 初めてのチンクエ・テッレは、ミラノにいた頃のこと。同じ日本人留学生の女友達が誘ってくれた。彼女は、べつの留学生で、やっぱり日本人の男の人から、海に行かないかと誘われたのだけど、その人と二人で行くのは何となく気がすすまないから、私に一緒に行ってくれない?と言ってきたのだが、私のほうは、チンクエ・テッレに連れてってくれるなら、はいはい、もう事情なんかどうだって、OKでございますです〜!みたいなノリで、喜んでついて行った。
 今ならわかる。あの日の私は、完全にお邪魔虫だったね・・・彼は、私の友達が好きだったんだよねぇ・・・わざわざ知り合いから車を借りて、チンクエ・テッレまで彼女とドライブ&海水浴、と思ってたのに、なーんでこんな女が一緒なんじゃ!と腹もたったと思う。んでたぶん、私の友達のほうも、彼のこと、まんざらではなかったんじゃないかなあ・・・(ということに、どうしてあのときの私は気づかなかったのか?)
 あの日私は、お一人様海水浴を、心から愉しんだ。コルニーリャの海は、岩場みたいなところばかりで、途中、泳いでいるうちに波に流されて、身体のおもて面(腹側のことです。)を、岩でずりーっと広範囲にすりむいて、流血の惨事にみまわれたが、やはりそのときも私は一人だった。(二人はどこでいちゃついてたんだ?)が、怪我してもなお、チンクエ・テッレの澄み切った青い海で潮風に吹かれ、私は幸せな気持ちでひとり、たそがれていたのだった。(アホだ・・・)