ありえない話 2
ありえない話、ではなくて、あってはならなかった出来事。
ミラノのスターホテルスプレンディドで本当の悲劇が起こったのは、シャンプーをもらい損ねたあとのことだった。旅行最終日の夜。
洗面所から出てきた私が、自分のベッドの脇にちょこん、と腰掛けた途端・・・
ガタッ・・・!突然、大きくベッドが傾いたので、そのままではベッドから落ちてしまうと思った私は、とっさにわっと飛び降りてしまった、自分が腰痛持ちだったことも忘れて・・・
・・・痛っ!ガクッと床に着地したときに、腰に衝撃が・・・
すぐとなりのベッドで横になっていた夫がびっくりして、「どうしたの?!」と訊いてきたので、「べ、べ、ベッドが・・・こわれた・・・こ、こ、腰が・・・」
この時点では、ベッドは私が飛び降りた反動からか、見た目、フツウに水平なままだったのだが、私にはおそらくベッドの足が折れたか何かだろうな、と察しがついていた。ショックのあまり、私がきちんと説明できなかったため、何が起こったのか事情が飲み込めてないままの夫が、私のベッドのところに回ってきて、よせばいいのに、その壊れたベッドにまた腰掛けてしまったので、ガッターン!!!と、今度こそ勢いよくベッドは傾き、完全に壊れてしまった。そしてその瞬間、夫も腰に衝撃をうけ、被害者は2名に増えた。
ある人に、ここまでのいきさつを説明すると、「そこでまたご主人がベッドにすわってしまうなんて、ホントにギャグ漫画みたいですねー!」と大笑いされてしまったが、ギャグ漫画などではなくて、すべてノンフィクションである。
証拠がこの写真。右側の、ななめってるのが私のベッドだ。
夫がフロントに電話。が、この事態を、何と説明してよいものか、しどろもどろになる。「あのー、ベッドの、足?っていうのかな・・・ベッドの足が、折れて・・・壊れてて、ともかく誰か、人をよこして。」
年配の男性ホテルマンがやってきた、それも、こんな時間に何だよ、みたいな、うんざりした様子で。
マットレスをどかして、ベッド本体を裏返す。ネジがゆるんで、足が一本取れている。そこへもうひとり、若い男性ホテルマンも登場。
二人で裏返したベッドを見て、「これ、もう片方の、こっち側の足もヤバイよね。」と言って、念のため、といった感じで2本目の足もとりはずした。もうどうなっとる?このベッド、っていうか、このホテル!
しかも私たちに大丈夫ですか?の一言もないので、「マジで腰、悪くした。」と、大げさに言ってみると、それはいかん、と若いのが、何か探してきます、と言って出て行き、おっさんのほうは、(ベッドの)足をよそから持ってきます、と面倒臭そうに言って出て行った。
あってはならない、と言っても、起こってしまったことは仕方ない。私が頭にきたのは、そのあとのフォローの仕方なのである。Uffa!と、うんざりしたときの、お決まりのセリフを吐きながら作業するホテルマン。本当にUffa!と言いたいのは、金を払ってまでこんな目にあわされた私たちのほうである。
おっさんは足2本提げて帰ってきて、今度はネジをギュウギュウしめつけて、マットレスを元に戻して帰ろうとした。夫はそのホテルマンを呼び止め、ベッド脇においてあった、ホテルのカードを手に取って、「これ、ここに書いてある言葉、これってあんたたちホテルのメッセージじゃないの?ねえ、どうなの??」とすごく厳しく詰め寄る。おっさんは言葉につまり、、何も言えなくなって、ぼそっと「グラーツィエ。」とつぶやいて部屋を出て行った。ああいう場面ではグラーツィエ、が適当なのか?
今度は若いのが、箱に入ったチューブの塗り薬を持って帰ってきた。日本の、バンテリンみたいなやつだと思う。それを手渡したまではいいとして、「使ったらちゃんと返せよ!」というヒドイ言い方をして出て行ったので、夫、ブチ切れる。
翌日のチェックアウトのときに、フロントで私たちの怒りは爆発した。昨夜の出来事、そのときのホテルマンの対応の悪さについて、まわりも気にせず、めちゃくちゃのイタリア語で不満を並べる。私たちの怒り方が尋常ではないので、フロントの男性二人も、どうにかこの場をおさめようと必死になっていた。支払いの段階になって、宿泊費などが表示されているらしいパソコンの画面を見ながら、フロントの係りは、「それではお支払いですが・・・」と言って考え始めたので、私は内心、「やった!あの騒ぎのおかげで、一泊分くらいはタダにしてもらえるかも!?」とムフフ・・・と自然にこぼれそうになる笑みをこらえるのに必死だった。
「それではお支払いですが、おかけになった電話代は差し引かせていただいて、宿泊費のみいただきます。」
がーーーん!!!そこか!?まけてくれるのは、電話代だけかっ!!!だったらもっとかけまくっとくんだった!?
イタリア人を甘くみた私がバカだった。ブスッとして、荷物を手にした私たちに、フロントの人は、Arrivederci.と、また会いましょう、みたいな挨拶をするので、夫はまたわざわざフロントまで戻って、「それはぜったいにないから!!!」とぶっきらぼうに言い返していた。
これまでたくさん旅をしてきたし、いろんな安宿にも泊まってきた。そのぶん、ホテルでのトラブルにも何度も遭ってきた私たちだが、とりあえずベッドが崩れたのは初めてだった。この先も、ないことを祈る。
それにしても、ちょっと4ツ星ホテルとしては、どうかと思う対応だったなあ。トラブルや事故が、起こってしまうことはどうしようもない。大事なのは、そのあとのフォローですよ。ほんとにもう、こんなに行ってあげてるんだから(?)、イタリアの方々、どうか私たちにやさしくしてください。