お月見どろぼう

 あいにく、今年の十五夜はお天気がよくなくて、雨まで降ったりしたけれども、雲がかかった墨絵のような中秋の名月も風情あるものでした。

 風情、という言葉とはかけはなれた、「お月見どろぼう」なるこの地域独特の行事を私が知ったのは、ほんの3,4年前のこと。十五夜の日、夕方ちかくになると、近所には大きな紙袋を持った大勢の子供たちがウロウロし始めるのです。そして私が見かけたのは、おうちの前に出された小さなテーブルの上におかれたお菓子を、うれしそうに紙袋に入れて退散する子供たち。はい次、はい次、といった感じで、お菓子を置いてくれてあるおうちを探してまわります。早くいかないと、ほかの友達にとられて、なくなっちゃう!

     
     
     


 昔は、お供えしてあったお団子を子供たちがこっそりいただいてしまって、それを、「きっとお月様が食べてしまったんだわ。」と言ったりしてたのよ、と年配の方から聞いたときには、「なるほど〜、ええ話じゃ〜。」と思ったのだけれど、そこから派生した今のお月見どろぼうさんは、何ていうか、恥もなく、品格もなく。タダ菓子めがけてレッツ・ゴー!みたいなノリになっているのだけれど、まあそれはそれで。子供たちにとっては、年に一度の楽しいイベントなのだから、おばちゃんもここ何年かは用意してますよ。

 要は駄菓子、なんだけど、これが子供にとっては宝物なんですね。「いっただきま〜すっ!」と低い声が聞こえたのは、学校帰りの中学生男子数人。生意気言っても、声変わりはしていても、まだまだ可愛いじゃないか。

 たくさん用意したつもりが、あっという間に終了〜となりました。