antica e nuova amicizia

    

 私たちにはめずらしく、旅先で人に会おうだなんてことになったのは、ものすごーい偶然があったからなのだけど、それはここでは書かないね。ともかく人生って、どこかでつながっているものなんだなあ。偶然なんかではなくて、ほんとはそういう風に最初から決まっていることなのだと思う。

 だからといって、すべてが上手く運ぶわけではなく、こちらが予定を100歩ゆずって(?)再会は実現した次第。夫が昔、イタリアにいたころの知り合いで、30年ちかくぶり?だから彼女が今どうしているのか、ほとんど近況については何もわからずに会おう、みたいになっちゃったんだけど、向こうから指定されてきたのは、ティレニア海側にある、トスカーナの町。その町の近くに、自分の娘を送っていかなくてはいけない用事があるから、そこで会おうと言ってきた。私たちをはるばるヴェネツィアから向かわせるのか?行ったこともないし、行ってみたいとも思ったことのないその町。ヴェネツィアから乗り継いで行く電車代が、何だかバカ高い気がして、2等車を予約。折りしもその日は、イタリアではバカンス客のユーターンラッシュの日。「<2等車の人々>というタイトルで、映画が一本作れるね。」と話したくらい、2等車内の乗客たちは、それぞれに大変なドラマがあり、いろんな事態がそこここで勃発していた。まったく疲れたよ。やはり快適さはお金で買うもの、なのか?夫は今後、ぜったい2等車での旅はしない、と誓った。もみくちゃになって目的の町までたどり着き、ホテルにチェックインしたところ、この日、なんかしらんのシステムの故障で、ホテル中、エアコンが使えないとのこと。暑いだのなんだの文句を言っていたけれど、疲れには勝てず、約束の時間まで爆睡。

 「それにしても、娘を送っていくからって、お宅(夫)の年齢から推測するに、その娘とやらは、とっくに成人してると思うんだけどさ。私に言わせりゃ、一人で行かせろよ、って感じなんだよね。」と遠くまで来さされて、まだ納得がいかない私が言ってしまうと、夫は、「いや、それはわからないよ。5度目の結婚でできた、まだとっても小さい子かもしれない。」

 そうしたら、まさか5度目の結婚ではないだろうが(←ぜったい違います!)、ほんとにとても小さい女の子とご主人といっしょに彼女は現れた。私の想像より(夫の年齢からの推定より?)ずっと若い感じの人。
 「この子がね、ヴァイオリンをやってるの。この近くで有名な先生の講習会があって、その先生にレッスンをつけてもらいに連れてきたのよ。歌は、この子にはやらせないの。」理由はわかるでしょ?とでもいうふうに、彼女は笑った。それに付け足すように、今度は指揮者であるご主人が、「この子にヴァイオリンを選んだのは、歌をやらせなかったのは、ほら、歌い手の性格ってのは、ほんとにその・・・なんだから。」と。ええ、ええ、よ〜くわかります〜。

    


 その後は楽しく食事しながら、伝えるべき点はこの場できっちりと伝え、昔の懐かしい話にもどったり、今、ご夫婦でされている仕事についての話、などなどで、時間はあっという間に過ぎた。
 彼女とご主人が、「で、今日はどこから来たの?」と訊いてきたので、私は声も出ないくらいびっくりした。「どこからって・・・だから・・・ヴェネツィアから。」と答えると、まるで初めて聞いた、とでもいうふうに、「ええーーーっ?!?!ヴェ、ヴェネツィアから来たの?????いったい、何時間かかったの???」と驚かれたので、私は新婚さんいらっしゃいの桂三枝のように、椅子から転げ落ちそうになった。どうして???どうして???こないだ電話で話して、そうなったんじゃないか。それも聞いてなかったのか?忘れたというのか?携帯を持っていない私達と連絡をとるなら、ヴェネツィアの滞在先のホテルに電話して、と電話番号だって教えておいたじゃないか!もちょっと、人の話、ちゃんと聞こうよ、メールもしっかり読もうよ。

 来年、また会おうね、と約束したあと、彼女は、「是非ともサン・マリーノにある自宅に招待したかったのに。」と悔やんだ。だから、あんたがちゃんとメールを読んでなかったから、行けなかったんじゃないか、としつこく心の中で愚痴る。

 でももう遠くまで来てしまったことなんて、なんでもないというくらい、すてきなご夫婦と、かわいいマリアとの出会いだった。音楽家の両親にレッスンにつきそわれたマリアの将来には、もうすでに立派な道が用意されているのだろう。それでいいと思う。このご両親なら、間違いないと思ったから。たいへんだろうけど、今をしっかり頑張れば、明るい未来が待っている、と昔、頑張れなかった子は思う。

 ある町の、とってもうつくしいドゥオーモ広場での、夏の一夜。