Fai da te

      

 今の家を建てるとき、建築家の方が夫に一番に尋ねました。「書斎は、どのようになさいますか?」その質問に、「書斎?そんなもん要りません。」と夫はキッパリ。

 少し前のことです。夫と一緒に、ある方のお宅に書類を届ける用事がありました。玄関先でお渡しして帰ってくればいいと思って出かけましたが、それだけでは済まない用事だったようで、ともかくパソコンの前でああだこうだしなくてはいかん、とおっしゃいます。立派な研究者でいらっしゃる方で、であるから当然のこと、私はそんなに親しいわけでもなく、お宅に上がりこんでいいものかどうかすごく迷っていたのに、「まあこんなことも二度とないだろうから、お邪魔させてもらいましょうか。」と、夫はあっさり。その姿に、「ここで出会ったのも何かのご縁。スケさんカクさんや、ここはひとつ、一晩ご厄介になるとしましょうか。」とすぐに人の家に泊まりこむ水戸黄門を思い出しました。

 通されたのは、先生が「書斎」と呼んでいらっしゃる部屋でした。

 ああ、書斎とはこういうものか・・・机があって、その上に働き者のパソコンがいつもスタンバってて、使い込まれたピアノがあって、そして何より、壁を埋め尽くすほどの大きな書棚に並んだ、膨大な数の本、本、本・・・

 これは書斎というよりも、この人の頭のなか、脳ミソそのものだな、と思いました。この山のような本を、片っ端から読んで読んで読みあさって、今のこの人があるのだな。

 「ああ、すごくいい書斎だったー。感動した!(←小泉さん風に。)ねー、私も書斎がほしい!!」夫に言ってみましたが、相手にされるはずもなく。

 それならば自分で、ミニ書斎を作ってしまおう。こんな私のアホな思いつきにお金をかけることはできないので、不要品を利用することに。その日からひそかに準備を進め、ようやく確保した小スペース。要らなくなった棚はそのままでは気に入らないので白く塗り、棚板を一枚増やしました。(これがなぜだか一苦労。六角レンチっていうの?あれとネジの大きさがあってなくて、空回り・・・仕方ないのでペンチでネジを締めます。さてどちらに回す?「右ネジの法則」というフレーズが頭に浮かび、実践して納得!かなり基本的なこともわかっていない自分に情けなくなりました。)

 かくして整った1メートル四方にも満たない私の書斎。ワインの木箱に納まった本の内訳は、地球の歩き方がほとんど、あとはロンリープラネットミシュラン、Bell'Italiaなどの旅行案内、最近ではそうしたものを読むためにしか使われなくなった辞書・・・等々、その内容の乏しさは、まさに私の脳ミソそのものを示しています。
 すぐ右手には、癒しの空間、多肉植物園が広がります。