雛の日に

 とてもとても寒い雛まつりです。

 子供のころ、正直なことをいえば、私はそれほどお雛様の日を愉しみにしてはいなかったように思います。その証拠に、立派な七段飾りの雛壇を、母親が毎年説明書と首っ引きでせっせと組み立ててくれても、どちらかというと、喜ぶのは私よりも弟のほうで、そのことに何度か母が愚痴っていたことを覚えています。私は雛壇にずらりと並んだ人形よりも、母が買ってきてくれて、一緒に飾られてあるひなあられに気をとられ、それに手をのばしては、食べてしまえばまた次のひなあられが補充されるのを待って、またそれに手をつけ・・・お雛様を出す時期になると、私にとっては雛飾りよりも、ずーっとそちらのほうが愉しみでした。

 大人になって、自分と同世代の人たちが親になって、子供さんの雛飾りやお祝いについて話しているのを耳にしたり、「うちのお雛さん、見て!」と実際に見せてもらったりして、ああ、私は親に悪いことをしたなあ、と思うようになりました。だから今ではおそらくその時の償いのような気持ちから、本当にすっかりおばさんになって、この季節を大切にするようになりました。

 あの当時の流行りだったんでしょうかね、あの大きくて華やかな七段飾り。友達の家に行っても、自分ちと同じような七段飾りがありました。べつに大きいからどうの、というのではないけれど、しかしやっぱりあの大きさには、親のいろんな想いや期待がこめられていたような気がしてなりません。

 まさかあの大きさの雛壇を今の家に飾るスペースなどなく、でもこのまましまったままではかわいそうな気もして、上段のお雛様とお内裏様だけでも、実家から持ってきて飾ろうかな、と思い始めています。