夢の話 〜夫版

 ようやっと、長いトンネルのむこうに光が見えた!そんな感じのマイコです。あともう一息、のどの端っこがやっぱりちょっと痛いけれど、これが治れば、もう!

 昨日、夫が見たと言って話してくれた夢の話。実際自分で見たわけではないから、細かい描写などがわからず、ぼやけたままなのだけど、アホなストーリーなので、それなりに愉しんでいただけるのではないかと思います。

 ミラノに住んでいる夫。たった今、コンサートを終えたばかり、という場面。それも現実ではありえない、朝のコンサート。ともかく無事にコンサートを終えた夫、ミラノ中心部にある会場を出たらば、なんと街は大規模なショーペロストライキ)の真ただ中。地下鉄もトラムもバスも、交通機関が全部止まっていて、家に帰れなくなったそうだ。

 困ったな、と思っていた夫のところに突如登場したのは、昔からの親友のDであった。私はこのDには会ったことがないのだけれど、彼について少し説明を加えるならば、かなり強烈キャラのイタリア人テノールで、なぜか夫のことが大好きな人物であるということ(と言っても、決してヘンな関係ではない。)。夫がマメに連絡を取ったりなど、人との付き合いが密ではないためか、Dの方からは何度も手紙やメールが届き、(これらについても、夫は毎度完全無視。)、わが家が引越しをして、住所が変わったものなら、ミラノにいる日本人留学生はじめ、その他のあらゆるイタリアでのツテというツテを使いまくって、とうとうわが家の新住所や電話番号まで入手したらしく、返事がもらえるわけでもないのに、再び手紙、メールでのラブコール・・・彼がコンサートで東京に来日していた際には、私に、「家のカギはきっちりかけておくように!」と、夫が忠告してよこしたほど。さもなくば、家にあがりこんで、ずっと居座ってもおかしくないヤツだから、と言う。

 夢のつづきに戻ると、ショーペロで困り果てていた夫を前に、Dは、大丈夫、オレが今から助けを呼んでやるから、と言って、どこかに電話をかけ始めた。驚いたことに、そのDの電話の相手は、なんとロシア秘密警察KGBであった。Dからの電話要請に応じ、ほどなくして現れたKGB の車。車内では、当たり前かもしれないがロシア語がとびかい、一種異様な怖〜い空気が立ち込めていたが、夫は、他に帰れる方法がないので、このロシア秘密警察に家まで送ってもらうと決めたのだそうだ。(あんたはスパイか。)しかし車内を良く見ると、空席がひとつしかなかった。で、その最後の空席に、例のDがちゃっかりと座り、夫に、お前は車の車体にしがみついて乗っていけ、と言うので、言われたとおり、夫はアクション映画さながらに、走る車体に振り落とされないようにしがみついていたのだが、あまりのしんどさに途中で手を離し、この貴重なロシア秘密警察を使っての帰宅のチャンスを棒にふることとなった。

 仕方なく、今度はタクシーを拾うことにした夫。少し先にタクシーの姿が見えたので、手を振って合図をすると、そのタクシーは猛スピードで逆走してきて、夫の前でぴたっと停まった。こんな猛スピードで逆走するタクシーに乗るのは危険すぎると判断した夫は、せっかく捕まえたタクシーを、もういいです、と言って断ってしまった。

 またまたアテのなくなった夫は、ともかくショーペロで家に帰れなくなっていることを私に知らせようと、ミラノの自宅に電話をすることにした。が、最初に電話がつながったのは、なぜか自分のまったく知らない人だった。しかしこの人は、朝の夫のコンサートを聴きに来てくださった人で、とても良いコンサートだったので、ぜひ、今晩、あなたを夕食に招待したい、と言ってきた。ありがたい申し出ではあったが、それどころではない、今の自分はともかく家に帰らなくてならないので、なんとお断りしようか迷っているうちに、なぜか電話は、ミラノの自宅にいる私につながっていたそうだ。

 さらに電話に出た私の話に夫は驚く。じつはこの日夫は、日本にいる自分の母親に、ある約束の時間に電話をすることになっていたのだが、ショーペロに会ってしまってそれどころではなくなり、お母さん(私からするとお義母さん)にはとうとう電話ができないままになっていた。その義母が、ミラノの自宅にいる私に電話をかけてきて、夫が約束の時間に電話をしてこなかったことに対してものすごく怒っていて、他にもいろいろ話したいこともあるし、これからミラノに行きますからね、と言ってきた、というのである。「えっ?!母ちゃんが?!これからミラノまで来るって?」とまたまたびっくりしながら、それならなおさら自分は、何としてでも自宅までたどり着かねばならないと思うのだった。(ちなみに夫の母、私の義母は、もう何十年も前に亡くなっていて、だからもちろん、私は会ったこともありません。)

 さらに街をうろつく夫。あるホテルの前まで来て、「ああ、昔、このホテルでもコンサートをやったことがあったなあ・・・」と、遠い記憶を振り返っていると、そのホテルから、ぽろんぽろん・・・とピアノの音が聞こえてきた。「あっ!このピアノ、Maestra S だ!」と、聴こえてきたピアノの音だけで、昔、自分がついていた先生だとわかったというのだから笑える。夫がホテルに飛び込むと、なかでレッスンしていたのはやはり間違いなくS先生だった。(たぶんこの人も、もう死んでいるだろう。)先生の方も、「あなたが昔、私のところにレッスンに来ていたことはよく覚えていますよ。」と言ってくれたので、ここで安堵した夫は、じつは今、ショーペロで家に帰れなくなって困っていて、ここまでたどり着く道のりがどんなに大変だったか、先生に話したのだが、なぜか、そのまま先生のレッスンを受けさせられることになってしまった。

 と、ここで、夫の夢はとつぜん断ち切られた。なぜなら、朝、まだ寝ているところに電話が鳴ったから。
 「せ、先生、あの・・・か、風邪をひいてしまって・・・今日のレッスン、お休みさせてください。」という生徒さんからの電話。
 朝の7時20分は、ちょっと早いよ。