スプーンおばさん

     

 バターナイフが見当たらないのだった。仕方なく、ごちゃごちゃの引き出しの中のモノを出して探していると、背後から夫の声が・・・「圧倒的にスプーンが多くない?」

 この中には、デザートをいただくとき用の小さいフォークもないといけないのだが、なぜかそれも見当たらず、ほとんどがスプーンばかりだ。二人家族に、この小さいスプーンの数は、ぜったいに多すぎ。(だってこれだけではなくて、まだガス台のまわりとか、いろんなところにこのテのスプーンがスタンバイしているんだもの・・・)

 スプーンが好きだ。カーブのラインとか、すくうところの深さ、浅さ、口に入れたとき、唇や舌に触れる感触は、どれをとってもひとつひとつ違っていて、「ああ、この子とは、相性が合うな。」というスプーンは、出会った瞬間に一目でわかるし、ただ「好きな顔だ。」というだけで手に入れたものもある。使いやすいものは、ついそればかり手にとってしまうし、あるいは、そのとき食べるもの、取り分ける料理によって使い分けたり・・・

 こうしていつの間にか、フォークもナイフもどこかに追いやって、スプーンばかりが増えてしまったけれど、やっぱりこれからもスプーンを偏愛しつづけると思う。