タイ式マッサージ ミラノ版

 ホテルの質の良し悪しと言いますか、本質みたいなのものを推し量るための究極のものが、私は、ベッドのマットレスではないかと思っております。要するにマットレスの硬さが、ほどよく硬めの方が、身体が沈まなくて快適なわけです。で、お客のベッドでの寝心地まで考えてくれているホテルってなかなかなくて、ホテルのグレードみたいなものは、意外とそんな地味な面において顕著であると、私は思っています。その点において、今回の旅で優秀であったと私が評価を下したのは、ミラノのカイアッツォ広場の近くにある、ドーリア・グランドホテル。イタリアに着いた日と帰国前とで、合計3泊しましたが、大変快適でありました。

 でもその帰国前のミラノの前に、トリノで2泊していたのですが、いわゆるどこにでもあるホテルチェーン(はっきり名前を明記しますと、Best Western です。)に滞在した折、そこのホテルのベッドは、横たわった瞬間、腰のあたりからゆっくりと、体が沈んでいくタイプのものでした。

 トリノからミラノに戻ってすぐ、夫が、「腰の調子が、かなり悪い・・・」と言い出したのでした。ベッドのマットレスが良くなかった、と言います。普段、体調が悪くとも、それを隠して、決して弱音を吐いたりしない夫がそんなことを言い出したので、私の方も心配になりました。そしてその時、二人の頭のなかにぽよよ〜んと浮かんだ場所が、同じだったようで・・・

 ミラノで滞在したドーリア・グランドホテルの何軒か隣で、たしかMassaggio Tailandese タイ式マッサージっていう看板を見たなあ、と。

 私 「でも、あの店、怪しいんじゃない?ヘンなことされる店かもよ。」
 夫 「だけどこの間、日本で見たテレビで、若い夫婦で、タイ式マッサージを勉強しにタイへ行ってる人が出てたけど、あれはちゃんとしてたよ。」
 私 「ああ、そうだったよねえ・・・じゃあ、ちゃんとした店かなあ?ま、そんなに腰が痛いんなら、行ってみたら?いやらしいことされても別にいいじゃん。」
 夫 「たとえば、いくらくらいまでの値段ならOK?50ユーロだと高いよね?」
 私 「50だと5,000円って感覚だよね?それは高いな。20〜30なら、まあいいんじゃない?」
 夫 「マッサージしてるあいだに、財布とか持って行かれるかもな。」
 私 「服とか脱がされて、身ぐるみはがされるかもしれんし、30ユーロだけ持って、あとは全部ホテルに置いてって。」
 夫 「で、もしなかなか帰って来なかったら、助けに来てよ!」

 などというやりとりの後、心優しい妻である私は、夫に30ユーロを渡し、ホントにマッサージをするのか、いやらしいことをするのかよくわからない店に、見送ったのでありました。

 ホントに大丈夫かや?と心配していたのもつかの間、いつの間にか、ベッドで昼寝してしまっていた私。ドアをノックする音で、目が覚めました。

 夫は無事、ホテルに戻ってきました。そして、問題のタイ式マッサージがどうであったかと言うと・・・

 初めに値段を聞くと、一時間50ユーロと言われたので、高すぎる、と言ったら、30分30ユーロのコースもあるとタイ人のお姉さんが答えたので、それに決めました。そしてその場で、先に料金を払わされたそうです。

 そしてお姉さんと別室へ。そこで、黒い不織布のようなもので作られた、紙パン(紙でできたパンツのことです。)というよりは、紙でできたTバッグというか、ふんどしみたなものを渡され、これに着替えろと言われました。

 驚いた夫が、全部脱ぐのか?と聞くと、全部脱ぐけど、タオルがあるから大丈夫、とお姉さんは笑顔で答えます。危ないところは、タオルをかけて、見えないにように隠してあげるから大丈夫、という意味らしいです。

 さらに夫が困ったのは、この手渡された紙フン(紙でできたふんどしのことです。)は、どちらが前なのか区別がつかないということでした。片方はちょっとまるく袋状になっていて、反対側は、短冊状の紙がついてあって(ちなみに横は紐状。)、どっちを前にしてはくのか?と、またしてもお姉さんに聞いたところ、お姉さんは袋になっている方が前だ、と教えてくれたそうです。短冊状の方が前だったら、とても前が隠せないのでどうしよう、と思っていた夫は、少し安心しました。

 そしてともかく言われたとおりに服を脱ぎ、紙フンのみになって横たわると、ベビーオイルみたいなのを使っての、オイルマッサージが始まったそうです。日本のマッサージや指圧みたいに、うぉ〜、効く効く〜という強いものではなくて、すごく物足りないマッサージ。

 それでも、自分は腰が痛いことを夫がお姉さんに伝えると、腰を念入りにやってくれた、というので、疑っていたほど怪しい店ではなかったのかもしれませんが、話を聞きながら、オイルを塗られたという時点で、やっぱりヘンな店か?と、私は思いました。

 ともかくそんなマッサージでも、腰痛はずいぶん軽減したそうなので、めでたしめでたしです。30分が過ぎたとき、お姉さんに「もうちょっとやるか?」と聞かれたので、「さっき払った30ユーロが全財産で、お金がもうない。」と言って断り、服を着て帰ってきたそうです。

 しかしマッサージを受けている間も、怖いおっさんとか出てきて、金を出せ、とか言われないか、金は持ってないと言っても、脱いだ服を持って行かれたりなどしたら、自分は紙フンのみの姿になるので、ホテルにも入れてもらえないしどうしよう、と、夫は不安であったそうですが。

 まったく、チャレンジャーな夫に脱帽です。