美食のアルバ 2

 前回にひきつづき、アルバの美味しかったお店。

 一泊してむかえた翌日の昼間の出来事は、まだ別で書くことにします。それは、アルバの街自体があまりにしょんぼりだったため、どこか近くの街か村に行こう!と決めたものの、すんなり行けそうな場所といえば、あのスローフード運動発祥の地として有名な、Bra ブラの街しかなかった。だから仕方なくブラに行くことに決めたのに、ちょっとした手違いから、そのブラにさえ行けなくなってしまった、という、あまりにもおバカさんなお話。

 今日は、そんな昼間のすったもんだの出来事のなかで出会った、一人のタクシー運転手さんに教えていただいた、運転手さんおすすめのアルバのお店をご紹介したいと思います。    

      

 前日のお店とはうって変わって、なんとも庶民的な、地元の人が集まる食事どころ、といった趣き。すごくめずらしい光景だな、と思ったのは、フツーの主婦とおぼしきご婦人が、何人も夕食をここで済ませていたこと。「今日は父ちゃんおらんし、自分で自分のごはん作るのもめんどうくさいし、まー、外で済ますか。」的に店に入ってきて、勝手に席に座るおばさん。(この「まー」という表現、おそらく名古屋の方なら会話のニュアンスをわかっていただけるかと思いますが、どう訳せば良いのでしょう?「まあその方がいいね。」というようなときに、私はこの「まー」を使います。)何人かの主婦グループみたいな人たちもいたし、一人で来る人もいたけれど、ともかくそんなことが出来る店って、めずらしいと思う。次々入ってくるおっさんも地元の人で、おばさんと顔見知りらしく、何事かを話しては、皆、それぞれ席につく。なんか、いい感じだ。


      

 上の写真は前菜にいただいた、野菜のフラン。フォンティーナチーズを使ったソースがかかっています。ここからはもうフランスが近いのね、ということを、匂わせるお料理ではありませんか。

 そして、この地方の前菜について。この店、メニューを持ってきてくれなくて、店の人が早口でまくしたてる今日の料理、みたいなのを、耳をダンボにして聞き取って注文するシステムで、4種類くらいあった前菜の中から、私たちは「ふらんってなんやろ?」と言いながらこの前菜を一品頼んだのだけれど、まわりの人を見ると、店の人があれこれ言った前菜を、4種類全部、あるいは、2、3種類と、複数食べている人がほとんど。で、この地方では、こんなふうに前菜を何種類もいただくみたい。一皿一皿はたいした量ではなく、それを3、4皿平らげて、プリモに進む食べ方が普通らしく、1種類だけしか頼まなかった私たちを不思議そうに見て立ち去った店の人の意味が、あとで解った。


      

 プリモに頂いたのが、キノコのタヤリン。タヤリンTajalin という呼び名は、タリオリーニ Tagliolini から来てるのかな?と思うのだけど、この地方の有名な手打ちのパスタで、タリオリーニよりはずっと細くて、何というか、とても口当たりのやさしいパスタだった。バターとサルビア(セージ)でシンプルに味付けをすることも多いらしく、口当たりだけでなく、いくらでも食べられそうなくらい、胃にも軽い感じのパスタを初めて味わいました。

 余談ですが、前菜を何皿も食べていた主婦のおばちゃん。よく食べるなあ、と感心していたら、プリモのパスタの途中でおなかいっぱいになったらしく、パスタをかなり残してさっさと帰って行った・・・一見、お店に対して失礼ではないか?と思われるこういうことも、平気でやっていい店らしい。


      

 つづいてセコンド。この地方のメイン料理は、イノシシとかウサギとか羊肉とか、どれも私たちはちょっと・・・というお肉料理が有名らしく、お店の人の口頭でのメニューもそういうものだったので、シンプルにステーキをオーダーしました。
でもお肉の焼き方が、小麦粉を軽くはたいて焼きつけたような、 何かひと手間加えて美味しくしたような焼き方でした。ピエモンテのお肉自体が上品な味わいですから、それに合わせた料理の仕方のような気もしました。トスカーナのお肉なら、ぜったいこんな焼き方しない。もっと野趣あふれる、肉!肉!!肉!!!って感じの焼き方ですものね。
お肉に勝るほどおいしかったのが、付け合せの野菜類。一度、揚げたりしてるのかな?コクがあって、塩加減も絶妙で、適当に作ってもきっといつもこの美味しさになるんだろうな、という、なんかどっしりした味。お母さんの料理みたいな。料理上手ってこういうもの作れる人のことを言うのでしょうね。憧れ。


     

 〆のデザート、パンナ・コッタ。これもピエモンテの名物ですから。写真のとおり、豪快なパンナ・コッタでした(笑)この店の、勢いある雰囲気にぴったり。ぜんぜん上品じゃないの。でもこれまで食べたパンナ・コッタとは、どれとも違っていて、私はこのパンナ・コッタこそ、元祖なのではないか?と思いました。だって、パンナ(生クリーム)を焼いたら(コッタ)こうなるな、と妙に納得したもの。(←ちなみに褒めています。)

     

 あと驚いたのは、一人で食事しに来ていたおじいさん、お客さんが帰ったあとのテーブルに残ってた、手の付けられてないパンを、全部自分の席に持って行って、それも全部食べちゃってた・・・(もちろん、自分のパンは完食済み。)いくらなんでもこういうのはねえ・・・初めてでしたねえ・・・だけど、この店ではそんなことも日常茶飯事なのかもしれませんね、というくらい、庶民的でした(爆)

 なんと支払いの仕方もびっくりで、レジで食べたものを自己申告するシステム。たくさん食べても、一人20ユーロの見当で大丈夫だと思います。なんとも庶民の味方。

 Osteria dei Sognatori
  Via Macrino 8 Tel.0173 34043 水曜休み

 サン・ジョヴァンニ広場のすぐ近くです。

 お店のカードをください、と帰り際に言ったら、お店のおじさん、あちこち何か探し始めて・・・どうしたのかな?と思ったら、要らない紙切れを見つけてきて、それにお店のスタンプをボン!と押し、びりっ!と破って渡してくれました。お店のカードなんて洒落たもの、ここにはありません。

        

 ホテルへ帰る道すがら、アルバの街のメインの通りを。
夜の街の姿は、さすがイタリア、やっぱりうつくしいですね。