うちのプレセーピオ

     

 プレセーピオといいます。イタリアのクリスマスの時期には、イエス・キリストが誕生する場面を再現した、このような飾りが飾られます。クリスマスが近づくと、うちでは玄関にこの陶器のプレセーピオを飾るのが、ここ数年恒例となりました。日本では宗教的な意味までは持たなくとも、季節の風物詩としてクリスマスをお祝いするのは、とても良いことではないかと、個人的には思っていますが。

 プレセーピオの本場は南イタリアの街ナポリで、我が家のプレセーピオも、スパッカ・ナポリとよばれるナポリの下町で買い求めたもの。訪れたのは12月、ちょうどその年にかぎって南イタリアに寒波が襲来していて、シチリアにも雪が降ったという寒い寒い冬でしたが、軒並みプレセーピオばかりを売る店がずらーっと並んだ通りを、寒さで凍えながら、これだけあるプレセーピオの中でいったいどれを自分に選んでいいのか、なかば吐き気をもよおしながら探し歩いたのも、今では良い思い出です。けっきょく赤い屋根の色が目を惹いて、やっとの思いで「これ。」と決めた品は、ナポリでは有名なカポディモンテの窯のもの。下に敷いた赤いぶどうや麦の柄の入ったクロスは、今年の6月、我が家にお迎えしたサン・マリーノからのお客様からいただいたお土産で、あとで読んだ本で知るのですが、このクロス、梨の木などから作った木の版に、何かの錆びの赤い色をつけて、まるでハンコのようにペタペタと押して柄をつけるという、サン・マリーノやリミニあたりの伝統工芸なのだそうです。このクロスの赤を見て、うちのプレセーピオにぴったり、と思い、今年からこの飾り方にしました。


     

 陶器であったため、飛行機のなかにも手荷物にして持ち込み、大事にかかえて帰ったプレセーピオですが、イタリアのいろいろなお宅で見せていただいたプレセーピオは、うちのような簡易型(?)ではなく、キリストやマリア様をはじめとした登場人物、脇役の少年やら動物たちなどの人形から、キリストの生まれた馬小屋、そのまわりでは水車が回っていたり、はたまた家のなかの家財道具やら台所の鍋やらイス、テーブルにいたるまで、それはそれは精巧に作られたミニチュアをひとつひとつ揃えて、それらをリカちゃんハウスのようにちまちまと並べて、暮らしのスペースまでをも見事に再現したものでした。その中のミニチュアの道具類や家具などを手に取って、「今年は新しく、これを買った。」と言いながら大事そうに見せてくれたアパートの大家さん。そんなふうに毎年少しずつ、自分の家のプレセーピオを充実させていくのが彼らのお楽しみの様。何だかとてもかわいらしく、ほほえましいな、と思ったのでした。(本当は私も彼らのような、リカちゃんハウスタイプのプレセーピオを集めたいと憧れてはいるのだけれど、日本に暮らしながらそれはムリ、と一体型で我慢している次第。)

 彼らのプレセーピオを見て、私は、日本のお雛様を懐かしく思い出したものです。実家に仕舞われたままになっているはずの、私の七段飾りのお雛様は、それこそお内裏様とお雛様だけでなく、三人官女に五人囃子、その他お付の人々たくさんとその人たちの持ち物、お嫁入りの道具や何やらもいっぱいあって、それらを飾る役目だった母が、毎年、組み立て方、飾り方の説明書と首っ引きで飾ってくれていたのを覚えています。あのお雛様も、全部はムリだけど、せめてお内裏様とお雛様くらいは我が家に持ってきて飾ってあげたいな、と、プレセーピオを見ながら思います。