未遂には終わったけど・・・

     

 ミラノ中央駅の横顔。中央駅を正面に見て立ったときの、右側側面と言えば良いでしょうか。到着した日に泊まったホテルの窓からが、この景色でした。私はこの駅の外観も、内部のホームが並ぶドームのような天井の雰囲気も大好きです。

 今回の旅で、なんと私たち、初めてイタリアで泥棒に狙われました・・・まあ結果としては未遂に終わったので、何も被害はなかったのですけれど、これまでこういう目に遭ったことがなかったからか、自分は大丈夫、という思い込みもあったので、ショックな出来事でした。苦い経験だったからこそ、ひとこと書いておきたい。

 場所は写真のミラノ中央駅にて。空港からのバスが到着する広場からすぐのホテルを予約しており、そこで一泊。(最初、別のホテルを予約していたのですが、その後円安が加速したため、予約していたホテルの向かいに建つ別のホテルに変更。こちらの方が30ユーロ安かったので。節約になったわけではなく、アベノミクスのお陰でこの差額分もトントンです。)その翌朝の出来事です。

 ミラノを午前11時10分発のフレッチャフレッチャは弓矢のことですけど、射られた弓矢のごとく、びゅんっ!!と速く走る電車のイメージでこの名前をつけたのだと。たぶん。)に乗り、ボローニャまで。ボローニャで乗り換えて、目指すはフェッラーラだったのですけど、事件はまだ旅が始まってもいない、ミラノ発のこの電車に乗り込んだところで起きました。

 予約していた8号車は電車のずーっと前方まで歩かなければならず、でこの日は雨が降っていて、ホテルから駅まで引っ張ってきた荷物のキャリー部分が汚れていたのでしょう、夫のジーンズが泥ですごく汚れているのに歩きながら気がつき、私はこの夫の服の汚れのことばかりが気になっていた。おいおい、フェッラーラに着いたら即、洗濯かよ、それも重たいジーンズを手洗いで・・・と思って。

 ともかく8号車に乗り込んで、次に探すのは、予約していた番号の座席なんですけど、車両の壁に書かれてある席の番号をキョロキョロと探しながら、通路を進んでいたんです。前に夫、それに続いて私だったはずが、いつの間にか太めの若い女性が夫と私の間に入り込んでいました。私の後ろからも人は来ているようだったし、要するに込み合う車内、という状況だったんですけど、私の頭のなかは座席の番号探しと、フェッラーラに着いたらおいおい、まず洗濯かよ、雨だし、ジーンズなんか乾かんぞ・・・とそればっかりで、今思えば注意散漫になっていました。

 太めの若い女性は(←しつこい。)、早く前に進めと言うように、かなり夫にぐいぐい詰め寄っていたらしく、夫は気を利かせて通路をあけ、先にどうぞ、と彼女を通してあげようとしたのですが、いいの、いいの、とそれは断って、彼女は先に行こうとしません。仕方ないので、夫、彼女、私の順でまた進み始めるのですが、そうするとまた先を急かすように、彼女は夫をつっつくのです。なので夫はまた立ち止まり、通路をあけ、彼女を先に行かせてあげようとしました。でも彼女はまた、「いいの、いいの、お先にどうぞ。」で、仕方なくまたさっきと同じように進み始めると、やっぱり彼女は夫を急かす、の繰り返し。ここで私、こいつオカシイ!と思いました。

 で、さっと私が彼女の前にまわりこむようにして、夫と彼女の身体が接している部分を覗き込んだのです。すると、はあ・・・彼女、視線は通路の先を見据えて、前に進もうとしているフリをしながら、右手が夫が肩からかけたショルダーバッグのファスナーにかかっており、バッグを開けて中の財布を抜き取る前の、まさにその瞬間でした。

 私、もう息が止まりそうになって。一瞬声がでなくて、次に「ドロボー!」と叫ぼうと思ったのだけれど、まだ財布を抜き取る前の瞬間で、盗られてないことは確かだと思ったので、ドロボー!なんて言っちゃったら、シラを切られて、名誉棄損とか言われたらどうしよう、と1秒くらいのあいだにこれくらいたくさんの考えを思い巡らせてしまい、声になりませんでした。で、とっさに私、無言のまま彼女の太い腕を(←繰り返す。)つかみあげてしまったのでした。(男前やね。)

 むにゅう〜っとした腕でした。彼女、若いのに完全にメタボです。ではなくて。

 私の心臓はバックンバックンしていましたが、現行犯で現場を押さえられた彼女も固まってました。しかしほんの2、3秒もすれば、案の定、「私が何か?」風にとぼけ始めた。

 さらにこの直後、驚いたことに、私の背後からもう一人、別の女が登場・・・って?えーっ??挟まれてたの?私も後ろから狙われてたってこと??

 この後ろの女は痩せていましたが(それはどうでもいい。)、国籍はアルバニアかどこか、見るからにタチの悪い雰囲気で、ああもう間違いなく泥棒さんだったと確信しました。自分の仲間がコトに及んでいるところを、私に腕をつかみあげられて失敗してしまったのにもかかわらず、まだまだ全然ひるむことなく、「さあさあ、どうぞ先に行ってくださいな。」と、性懲りもなく、私に言ってくるのです。はあ・・・

 これらのやり取りのあいだに、私は夫にだけわかるように、日本語で「スリだよ、バッグ開けられる寸前だった。」と言っておいたのでした。本当はまわりの乗客みんなにわかるように、イタリア語で叫ぼうかと思ったのですが、先ほどのシラを切られて名誉棄損で訴えられる、が頭をちらつき、夫にだけ知らせたのでした。でもとうとう私もここで頭に来て、「お前らがさっさと先に行けよっ!」って、怒鳴っちゃった。これに続いて夫が、車両じゅうに響き渡る大声で、「先に行け先に行けってっ!!こんなに混んでてどうやって先に行けっつんだよーーっっ!!!」と怒鳴り散らし、あたりは一瞬、水を打ったようにしーん・・・。(ダテに毎日喉、鍛えてないのでね。)これで乗客みんなの視線が私たちに集まったので、さすがに彼女たちもこの状況ではお仕事になりません。ここでやっとあきらめて、すたこらさっさとどこかへ消えてしまいました。

 ま、そんなんで事無きを得たのですけれど、旅の初日、充分に自分たちの日頃の日本ボケを実感する出来事となりました。

 経験して言えることは、ああいったスリからの被害を防ぐのってほぼ不可能ではないかと思います。いつの間にあんな状況になっていたのか、まさにプロですよ。今回、水際で私たちが被害を防げたことはたまたまだったと思うし、これまでこうした事に出くわさなかったのもほんのちょっと運が良かっただけ、と思います。

 そんな私が言ったところでアドバイスにもなりませんが、ひとつ思ったのは、運悪くこういった奴らに目をつけられてしまったときの被害を少なくするために、お財布のなかにはたくさんのお金を入れないように、とりあえず必要な少額のお金だけを入れておく、くらいのことしか、私達には出来ないのかな、と。ほんの何千円くらいなら、たとえすられたとしても、半日か一日くよくよすれば、どうにか立ち直れますから。クレジットカードや多額の現金は、貴重品入れに入れて身に着けておくのはもう絶対で、身ぐるみはがされてこれらを盗られるような状況になってしまった場合は、もはやお金の心配よりも、命の心配をした方が良いと思います。

 あと混雑する出発間際の乗車は避けること。あれも出発までもう何分のない状況だったからこそ起こったことだったと思います。お財布抜き取ってすぐに彼女らは電車を降り、そのまま私たちは盗られたことに気がつかずに出発して、はい、さよ〜なら〜、というシナリオだったのでしょう。

 この日、夫はクレジットカードでホテルの精算を済ませ、カードも現金も全部、例のショルダーバックの財布のなかに一緒におさまっていたというのですから、もしも盗られていたら、と思うとぞっとします。そしてこの危機を救った私に、もちっと感謝してもらいたいものです。