トルチェッロ島

cucciolo-mayu2009-02-19

 昨夜寝る前に、須賀敦子さんの「地図のない道」を読み返していて、ぐぐっときてしまい、どうしても紹介したくなりました。
 ヴェネツィアのラグーナ(潟)に浮かぶ小さな島、トルチェッロ島。ここはヴェネツィア発祥の地で、7〜14世紀にかけてはラグーナのもっとも重要な町として栄えたと言います。今では住む人もほとんどなく、ひっそりと静まりかえっていますが、この島にはかつて繁栄をほこった時代の教会が残っています。
 以前ご紹介したブラーノ島(http://d.hatena.ne.jp/cucciolo-mayu/20090107)から、水上バスで5分で到着。(トルチェッロへは、ヴェネツィアのフォンダメンタ・ヌオーヴェからブラーノへ行く水上バスに乗り、必ずブラーノ乗り換えになります。)小さな小さなトルチェッロの船着場に着いたら、すぐ見える静かな水路に沿って歩いていきます。

途中、素敵なお庭のあるお宅をのぞいたり、やたら動物に出会ったりして、なかなかのどかな散歩道です。
 
かわいらしい橋もありました。

橋からの眺めもなかなか。

 この橋を渡り、テラスで食事の出来るようなレストランなどがある一角を抜けると広場にでます。この広場に立っているのがサンタ・フォスカ教会。

その奥(サンタ・フォスカ教会に向かって左側)に隣接して建つのが、お目当てのサンタ・マリア・アッスンタ教会。ヴェネツィアで最も古い教会といわれています。

 この聖堂の中にある、モザイクの聖母子像は必見。その素晴らしさは私が下手に説明するよりも、須賀敦子さんの、あまりにもうつくしい文章を引用させてください。
 
 「しばらくじっとしていると目が暗闇に慣れて、ほのぐらい祭壇のうしろの丸天井のモザイクがうっすらと金色に燦めきはじめた。天使も聖人像もない背景は、ただ、くすんだ金色が夕焼けの海のように広がっているだけだった。それが私には天上の色に思えた。金で埋められた空間の中央と思われるあたりに、しぶい青の衣をまとった長身の聖母が、イコンの表情の幼な子を抱いて立っている。聖母も、イコン独特のきびしい表情につくられていた。その瞬間、それまでに自分が美しいとした多くの聖母像が、しずかな行列をつくって、すっと消えていって、あとに、この金色にかこまれた聖母がひとり、残った。これだけでいい。そう思うと、ねむくなるほどの安心感が私を包んだ。」(「地図のない道」より)

 ずっと昔、この文章を読んで、いつか必ず「いかねばならぬ」と誓い、2年前の春、トルチェッロ行きが実現しました。私は宗教を持たない人間ですが、それでもこのマリア様にはものすごいパワーを感じました。自然に背すじがピンとのびてしまうというか、謙虚に生きていかなくてはいけないな、という気持ちになって、しばらくそこから動けなくなりました。とても荘厳で静謐な聖母です。
 ぜひとも見に行かれることを、強くお勧めします。