valpellineintze

 ひきつづきアオスタの旅で、食べたもの。

 その行く前に観ていた「小さな村の物語」のなかで出てきた料理に、これまた私は釘づけとなったのだった。村に暮らす家族が夕食を作っているシーンがあって、まずちりめんキャベツを茹でて、(ロールキャベツのときみたいに葉をきれいにはがしてあった。)んでスープに漬したパン(この地方ではパンは昔からとても貴重なものだったから、固くなったパンも無駄にしないためにこんな風に料理する、と言っていたはず。)、さっきの茹でたちりめんキャベツ、そしてこの地方で有名なとても匂いの強いフォンティーナというチーズ(私、昔からフォンティーナラブです!)を何層か重ねてオーヴンで焼いたもの。グラタンとスープの中間みたいな、すっごく身体があったまりそうな料理。チーズが糸をひいて、もうテレビを観ているときからよだれが出て仕方がなかった。いつかぜったいこれを食べてやる!

 いざ、アオスタのトラットリーアで。あらら、あの料理、名前がわからん・・・

 うーん、困った。メニューを眺める。「Zuppa di ほにゃらら」という名前の料理がそれではないか。「ほにゃらら」のところの単語が、読むことすらできない。フランスにも、スイスにも近い場所。話す言語もイタリア語だけではなくて、この地方独特の言葉らしいが、メニューにも何のことかわからない綴りが目についた。
 仕方ないので店の人を呼ぶ。名前がわからないけれど、私の食べたいものはこういう料理だ、テレビで観た、と言ってみる。(「テレビで観た。」が余計だ。)ああ、それならZuppa di ほにゃららで間違いないよ、と言われたので、「じゃ、そのほにゃららを。」と頼む。「他にこの地方の料理は?」と訊くと、「Crespelle のほにゃらら」という料理を勧めてくれた。さっきと同じ単語のようだが、本当に私はこのほにゃららという単語に弱いらしく、ぜんぜん覚えられない。「じゃその、Crespelle のほにゃららもください。」と頼んだ。Crespelle はおそらくクレープのことだろう、ほにゃららはわからないけれど。


    


    

 料理は一緒に運ばれてきた。Zuppa スープのほにゃららのほうは、テレビで観たものと同じで間違いなく、Crespelle のほうはやはりクレープに、フォンティーナチーズのソースがかかった料理だった。どちらもこれでもか、というくらいフォンティーナの味で、とても濃厚、赤ワインにぴったり合う。高タンパク、高カロリー、高コレステロールであると思われるが、この寒い地方で生きるために、コレステロールや脂肪などは生活必需品みたいなものなのかもしれない、と思った。

 この記事を書くにあたり、ほにゃららの単語は何であったか、旅の間につけている日記を見返したが、この単語に出会った直後に書いたと思われる日記のなかでも、ほにゃららの部分が空白であった。自分の頭の悪さに、言葉のセンスのなさにヘキエキする。
 仕方がないので本で調べた。Valpellineintze たぶんこの言葉だったと思う。ヴァルペッリネインツなのか、ヴァルペッリナインツなのか、まあそんなこともうどっちでも良いが、やっぱり今回も10分もすればきれいさっぱり忘れているのだろう。子音が多すぎて、単語を最後まで読みきる前にくじけてしまう。そう、ドイツ語を習ったときもそうだった。まったく親近感のわいてこない言語だった。明るい響きの母音が好きだ。