ドニゼッティの街

     


 予定や予算をあれこれとやりくりして実現させた旅の時間は、ただでさえかぎられた貴重なものであるのに、旅行中、かならず一度や二度は訪れる日曜日をどう過ごすのか、これは荷づくりと並んで、私の旅の永遠の課題なのかもしれません。

 そもそも多くのお店は日曜日には閉まってしまうし(それでも昔に比べたら、ずい分営業するお店が増えましたが。)、交通機関が減便されて移動ができなくなったりすることも考慮して、どこで日曜日にあたってしまうのかということを常に頭におきながら、プランを立てていかなくてはなりません。

 前回の旅では、ミラノで日曜日が来ちゃいました。しかも旅行の最終日。ミラノなんかお店がなかったら砂漠のようなものだし、それにだいたいどこも見ちゃってるし、しかも明日には帰途についてしまう、と思ったら居ても立ってもいられず、ミラノなんかで腐っているわけにはまいりません!というわけで、急遽決定したのが、ベルガモへの小旅行でした。
 
      

 思いつきでの日帰り旅でしたが、これが大正解!日曜日に退屈してしまって、どこか行こうか?→じゃベルガモでも?という思考回路をふむのはどうやら近隣のイタリア人も同じであるらしく、そういう人たちが日曜日にやってくるのがこのベルガモの街なのか?と思ってしまうくらい街はにぎわっており、これらの人目当てにかなりのお店は営業中。びっくりしました。「30年くらい前にオレが来たときは、ベルガモにはこんなに人、いなかったよ。」を連発する夫。



    

 話が前後しますが、電車でベルガモに着いたら、駅の前からバスに乗り(上の写真が駅前。駅の前とはいえ、どこかエレガントさが漂います。)、ケーブルカーの駅があるところで降りて(それがどこだかわからなくても大丈夫。同じような人たちがたくさんいるはず、みんなの降りるところで降りて、ついて行きましょう。)今度はケーブルカーに乗り換えてベルガモ・アルタの旧市街へと向かいます。バスに乗ったときの切符でケーブルカーも大丈夫。
    

 着いたらもうそこは中世の街並み。メインの通りを進みましょう。ここでもみんなについて行けば大丈夫。
お土産物屋さんをのぞいたり、美味しそうなものに足止めを食らったりなどしながらしばらく行けば、街の中心ヴェッキア広場。美しいです。

    
    
 上の写真の建物のアーチをくぐった奥にあるのが、つづいての写真。
    
 右側のゴージャスなファサードの建物がコッレオーニ礼拝堂、その左、もうひとつ目立たない感じではありますがサンタ・マリア・マッジョーレ教会。同じく隣り合うようにして並んだドゥオーモへ。内部はきらびやかなものでした。
    
 中に入ったときに、ちょうどミサだったのかパイプオンガンの音色が。圧倒的で、きらびやかな壁画や天井画から降ってくるような音色。ああ、もう素晴らしかった。こういう宗教的空間って、音楽があって初めて完成されるものなのですね。感動的な場面でした。
   

 しかしcucciolo さんの行くところ、お天気が・・・。この日もベルガモに到着した途端に雲行きが怪しくなりまして、何やら空からぽつり、ぽつり、と落ちてまいりました。9月の初めとは思えない肌寒さでした。私はいいのだけど、夫だけは風邪をひかせてはならん、と、薄手のストールを肩にかけさせ、雨よけに私の帽子を頭にかぶせたところ・・・
 スナフキンになりました。通りを歩けば、お店の人が中で大笑いしながら、私たちに向かって親指を立て、グーサインを送ってきます。「ねえ、なんかその格好、すごく笑われてるよ。」って、自分がそんな格好をさせた本人なのだけど、やめたほうが・・・と夫に忠告するもガン無視。
    
 中世の街をゆくスナフキン・・・
    

 そしてこの旅のメインでもあった、ドニゼッティ博物館に到着。ベルガモはいわずと知れた、作曲家ドニゼッティを生んだ街でもあり、10年以上前に訪れたときに、ドニゼッティの生家は見たので(そこではなぜか、地下にあった暗ーい中世の時代そのものを思わせる台所のことしか覚えていない。)、この日は博物館のほうへ。

    
 上の写真が入り口。この建物、田舎の町によくある小さい規模の音楽学校、みたいなこともやってるよう。
博物館は、作曲家の手書きの楽譜だったり、愛用したピアノだったりがおさめられたりして、ドニゼッティの生涯がわかるようにまとめられた、ま、ありきたりといえばありきたりの内容のもの。ドニゼッティは、オペラ作曲家としてはもっと評価されてしかるべきなのではないか、と私などは常々思っておりますが。ヴェルディだけが別格、と位置づけられるのは仕方ないとして(イタリア人の多くが、オペラナブッコのなかのおなじみの一曲を国家にしたかった、と思っているなんていうのだから、ま、仕方ないよね。)、あと、同時代に活躍したドニゼッティベッリーニが必ず比較の対象にあがり、しかしイタリア人にはベッリーニの音楽のほうが好きだ、と思ってる人が圧倒的に多いことを、私はあまりおもしろく思っていない。ベッリーニのアリアなどのメロディーラインの美しさがウケているのでは、とひとり推測するのだけれど、あのメロディーが辛気臭いねん!って感じる日なんかも、私はたびたびある。溌剌としたドニゼッティの音楽が、私は好きです!(単に好みの問題?)

    

 オペラ愛の妙薬の楽譜に見入るスナフキン・・・
    

 私はなぜか楽譜やピアノよりも、彼が使っていた一人がけのソファーだったり、臨終のときを迎えたベッドだったりのほうが、ずっとドニゼッティの影、みたいなものを感じられた。そしてこの人、自分の肖像画をすごくたくさん書かせた人!いっぱい飾られたそれらを見て、「こういうの、お嫌いではありませんでしたな。」と、声をかけたくなるのだった。

 お昼を済ませ、適当に街歩きを愉しんだあと、またケーブルカーでバッサの街に降りる。ついでにドニゼッティ劇場も見に行こう。やれやれ、日も照ってきた。
    
 もちろん劇場は閉まっていて中には入れないのだけれど、正面を左手にまわると、ちょうど本番が近かったのだろうか、テノールのレッスンが丸聞こえだったので、しばらくそのまま聴かせていただくことにした。とてもイタリアらしいテノール

    
劇場の前にはフェラーリがわんさと停まっていて、フェラーリの品評会か何か?と思ってたのだけれど、どうやらこれはフェラーリ愛好者たちがそれぞれの愛車を持ち寄って集い、お互いのフェラーリを見せ合いっこする会、のようだった。ふーん、そういう世界もあるんだ。

 フェラーリの会のさらにその向こうではメルカートが開かれていた。これもちょっと変わったメルカートで、トスカーナだったり、これはフランスのプロヴァンスのものではないの?と思うような遠くのものだったりを売る、かなり四方八方から集まった店のメルカート。大好きなカゴがたくさん売られている様子に、レッスンを聴講中の夫を残し、私はメルカートへ。「カゴはひとつまでねー。」という叫び声を後ろに聞き流しながら・・・

 言いたいことが最後になってしまったけれど、ミラノから電車で一時間弱のエレガントな街ベルガモ。気軽にでかけてみても良いのでは?