未体験のヴェネツィア

     

 ヴェネツィアはご存知のとおり水の上に浮かぶ街であるゆえに、移動手段が船か徒歩に限られてしまうのですが、そこが何とも「人類、みな平等」な感じがして、私には何だか心地よいです。それはたぶん、自分は車の運転が超苦手で、暑い日も寒い日もひいこら自転車をこいでいるから、みんなが車が使えない状況になってやっと自分とおんなじだ、という思考回路を踏むからだと思う。

 そのヴェネツィアでは、まず水上タクシーを使うなどということは経済的理由から絶対にありえず、いつもヴァポレット(水上バス)の、○時間乗り放題みたいなパスを買って、それの元をとるべくなるだけ多くヴァポレットに乗る、あとは歩きまくる、という旅をしてますが、ずっと気になっている乗り物があります。ゴンドラではありません。トラゲットと呼ばれる、渡し船です。形はゴンドラに似ているけれど、ゴンドラより幅が広くて、少々優雅さに欠けるところなど、まさに渡し船の風情でしょう。

 トラゲットは、ほんとに運河のすぐ対岸に渡るときに使うものみたい。街の中に何ヶ所か乗り場があって、地元の人とか通勤とかで使う人も多いと聞いたけれども、私はまだ使ったことがありません。この間滞在したホテルのすぐ隣が、偶然にもサンタ・ソフィアのトラゲットの乗り場だったので(ホテルに着いてから発見!)、乗ってみようと思ったのだけれど、自信がなかった・・・と言うのも、トラゲットに乗るときはすわったりせずに(座席もないのだと思う。)、みんな進行方向を向いて立って乗る、と聞いていたので、腰痛の大患者の私は、とてもじゃないけれど、ゆらゆら揺れる船の上で立っているなんて、とてもムリ、と思ったのです。

 けど、上の写真をよく見たら、船の間に渡した板のようなところに女の人が腰掛けてます。あんなふうに座れば私でもきっと乗れたよなあ。
     
あっという間にすぐ向こう側に到着〜。

 あともうひとつ未体験なのが、アルターナ。
    

 アルターナは、ヴェネツィアのおうちの屋根の上に作られたベランダみたいなもの。上の写真を撮った場所はホテルの屋根の上に作られた、これもいわばアルターナだったのだけど、私が見てみたいのは、フツウのおうちの、ヴェネツィアに暮らす人たちが、生活の中で使っているアルターナ。土地とも呼べない、浮島のようなかぎられた場所に街をつくり、互いが互いを支えあうようにびっしり家が建つヴェネツィアでは、そもそも庭を持ったり、外の空気を吸える場所を確保するのって、お金持ちの人にしかかなわなかったことなんじゃないかと思う。屋根の上にひろがる空に空間を求めた、というアイデアが、すごくいいな、と思うのです。蒸し暑いヴェネツィアの夏を乗り切るひとつの方法でもあったのだと思います。
 まだまだ日が暮れない夏の夕刻、アルターナで仲の良い友達やご近所さんとアルターナで一杯やりながら夕涼み、なんて、すごく素敵な過ごし方だと思って、ずーっとそういうのに憧れています。
 たぶんトラゲットに乗るのは、腰さえ良くなればそう難しくないと思うのだけれど、誰かのおうちのアルターナにお邪魔するというのは、おそらくなかなか・・・