ヴァカンス中の子供たち

 ペーザロは海のあるヴァカンスの町です。今回、ヴァカンスのつもりで行ったわけではなかったけれど、それでも、昼間はちょっと海辺に寝そべろうか、となるし、夕食を食べたら食べたで、腹いっぱい食べ過ぎて、うつむくとさっき食べたものが出てきそうなので、のけぞりながら腹をなでなで、消化のために、ぶらぶら散歩しながらホテルに帰る・・・結局はこうなってしまいました。

 その消化促進のための散歩途中、私が思うのは、子供がこんなに夜遅くまで遊んでいてええのか?ということ。どこのヴァカンス地に行っても、同じような光景を目にします。


     

 町のなかに、というか、通りの脇に組み立てられた、カラフルな網目で囲われた小屋。なかはどうやら一階と二階に分かれた作りのよう。のぞいて見れば、ボールが山ほど置かれてあるスペースでは、ボールの海に頭からつっこんではしゃいでいる子、楽しいおもちゃがいっぱいあるスペースでは、もはや頭のネジが飛んでしまったかのようにうれしさでもだえている子などなど、ともかくこの中では、どのおもちゃを使って、どんな風に遊んでもよいらしく、子供にとってはまさにパラダイスらしいのです。

 夜9時とか10時とか、子供にとってはもう深夜でしょう、と、まだ日本の感覚を引きずったままの私には感じる時間になっても依然大盛況のこの遊び小屋は、これまでにも何度かほかのヴァカンス地でも見かけたことがあるので、イタリアのいろんなところでこうしてお店を広げているのでしょう。
今回、この遊び小屋の、お店としてのシステムを初めて理解しました。20分2ユーロだったか、1.5ユーロだったか、ま、それくらいの値段設定なのですが、まず入る前に、小屋の横にある受付で、子供の名前を伝えます。受付のお兄さんは、○時○分マルコ、×時×分フェデリーカ、などというように、子供の名前と、その子が小屋に入店した時間を記録しているようです。制限時間の20分がくると、受付のお兄さんがマイクで、「マルコ!」とか「フェデリーカ!」とか、名前を呼ぶので、呼ばれた子は外に出て来て、はい、お終い、となるはずなのですが、そうはうまくいきません。

 フェデリーカはさっきから何度も呼ばれていて、お兄さんの声も、「フェデリーカッ!!」「フェーデーリーーカーッ!!!!」と、どんどん語気を強め、イラつき始めているのがわかりますが、当のフェデリーカはまったく出て来る気配がなく。仕方なく、フェデリーカのお母さんとおぼしき女性が、中に連れ戻しに入って行きました。
また受付のところには、「この遊びをしている途中で、お子さんが、おしっこやう○ちをもよおし、ガマンできなくなる恐れがあります。親御さんは、遊びに入る前に、ご自分のお子さんのおしっこやう○ちは大丈夫か、よく確認してから中に入らせてください。」(←かなり意訳です。)という張り紙まであることから、これまでに、興奮のあまり、自分のおしっこやう○ちが切羽つまった状態に近づいていることに気がつかぬまま、とうとう彼らの膀胱とお尻は限界をむかえ、粗相をしてしまった子が何人もいると思われます。


     

 そのほかの子供の夜の遊びの場として繁盛していたのが、Gran Teatrino dei Ragazzi 子供向けのお芝居が愉しめる劇場小屋。

 毎日お芝居の演目は変わる様子。こちらは一晩5ユーロですが、毎日違うお芝居が愉しめるので、何度も通いたい人には、お得な回数券みたいなチケットも用意されています。小さい子は保護者と一緒に(この場合、親子用のチケットを購入するらしい。)、大人が居なくても平気な子は、一人でなかに入ってお芝居を愉しみ、お父さんやお母さんが終演時間を見計らって、小屋の外まで迎えにきて待っています。

     

 芝居が終わると、お芝居だけでなく、歌をうたったり、飛びはねたり、踊ったりしていたお姉さんたちがギターを弾きながら、音楽にのせて子供たちを外まで連れ出します。興奮して、目がギンギンの子供たち、きっとそうでもしないと、なかなか帰らないんだと思います。

 外で待つお父さんお母さんのところまで来ると、「さあ、みんな、こども劇場の歌は、もう知ってるかな?」と言って、ギターを爪弾きながら歌いだすお姉さんたち。この歌の、終わりにさしかかったところの歌詞がおもしろい。Salta! Salta! Salta!「跳んで!跳んで!跳んで!」という掛け声のようになっていて、それがどんどん速さと激しさを増していくので、子供たちが音楽につられて狂ったように飛び跳ねる。その様子見たさに、毎日、終演時間になると、劇場の外の親たちにこっそり紛れこんでいた私です。
 何日かそうしていると、「もし私も、イタリアに住んで子供が居たら、おバカになってもいいから、やっぱり毎晩、こうして子供を夜遅くまで遊ばせちゃうな。」と思うようになります。


     
 最後に、ヴァカンスに来たお年寄りたち。

 これも同じ時間帯の、とあるホテルの一画での光景ですが。
 何十年も昔、彼らが青春を謳歌した場所はダンスホールだったのかもしれません。そこで花開いた恋もひとつやふたつ、あったのでしょう。そんなセピア色した思い出が、このとき、彼らの脳裏をかすめていたのでしょうか・・・
昔とったキネヅカ、というやつですか、華麗なステップだけは、今も健在でいらっしゃいました。