バーニョ・ディ・ティヴォリ

 週に一度くらいだけれど、プールに通い始めた。イタリアで泳いで以来、腰痛が軽減し、帰国してからは接骨院に通う回数も激減。自分の身体のことながら詳しくはわからないけれど、ともかく泳ぐことによって、コリがほぐれるだけでなく、骨格もニュートラルに戻せているような、そんな感覚。

 私の腰痛には水泳が良かった、という思いがけない発見のいきさつ。じつは、イタリアに着いてまず私がやりたかったことは、日本の日常や雑事を忘れるために、頭の中を空っぽにすること。(あれ?いつも空っぽのはずですけど?)そのために真っ先に思い浮かんだのは、イタリアの温泉にのんびりつかる、ということだった。

 おととしのバーニョ・ヴィニョーニに始まり、アックイ・テルメ、サルソマッジョーレ・テルメ(←ブログにはアップしていないけれど、今年の春に行った。近日公開??)につづき、このあいだの旅では、いよいよ我が家のテルマエ・ロマエ第4段?!と張り切ったものの、肝心の、どこの温泉に行ったらいいのか、がわからなかった。

 最初見つけたのは、法王の温泉と言われるTerme dei Papa だったのだけれど、ヴィテルボにある温泉は、ローマからの日帰りを考えると、ちょっと私には遠すぎた。もう少し手近に行ける温泉はないだろうか?と探してみつけたのが、バーニョ・ディ・ティヴォリ。で行ってきましたよ。

 地下鉄B線(ローマの地下鉄にこんなに遠くまで乗ったのは初めてだった。)で、終点のひとつ前のポンテ・マンモロで降りて、地上に上がったところのバスターミナルから、ティヴォリ行のバスに乗った。

 案外たくさんの人がこのバスに乗る。ローマの人だけでなく、観光客も。そうだよね、有名な庭園はあるし、いつか行ってみたいヴィッラ・アドリアーナもティヴォリだものね。バスが入ってくるまでは、みんなのんびりおしゃべりしながら、和気あいあいと過ごしていたものの、バスが到着した途端、誰もがハンターの目つきに変わり、どどどどーーーっ!!!と、ものすごい勢いで周りの人間を押し合いへし合い、席取りに走る。かくいう私も、いつも一番前の座席を狙っているハンターの一人で(酔っちゃんなのです。)、この日も頑張った!!そしてめでたく、最前列をゲットした・・・と喜んだのもつかの間、座ってみるとそこは、運転手のすぐ後ろの、目の前に壁がある席で、前方の景色を見ながらバスに揺られないと酔ってしまう私は、完全にブルー。

 やれやれ、ティヴォリまでは一時間くらいかな?私、もつのかよ・・・と気持ちをやられながらバスは出発。しかし30分ほど走ったところで、たくさんの人が降りていくバス停があったので、すぐ前の運転手に、「ここはティヴォリの温泉か?」と訊くと、「Si.」と言うので慌てて降りた。(酔わずに済みました。)

 バスを降りてすぐ前が、目指していた温泉施設でした。↓

     

 バスを降りたあたりの風景は汚く、雰囲気も殺伐としていて、一瞬「あれれ?これは失敗だったのでは?」と思ったのだけれど、私がこれまで行ったイタリアの温泉とは、ここは全然違っていた。これまで行った温泉が北イタリアに存在していたからか、(と、こんな発言自体が南イタリアにもそこに住む人にも失礼にあたるのかもしれないけれどごめんね。)イタリアの温泉とはどこか格調高い雰囲気の漂う、ハイソな感じの利用客の姿もちらほら・・・というイメージを持っていたのだが、ここは・・・良く言えば庶民的、悪く言えば・・・やめておこう。

 はい、見かたを変えて、というか、考えを変えて。この日は温泉に来た、と思わずに、プールに来た、と。そう割り切れば、充分に愉しめる場所となりました。(笑)

 良かったことのひとつは、入場料もプールだけなら13ユーロと安かったこと。春のサルソはたしか、32とか36とか、倍以上のお値段だったので。(ここの施設は、温泉療養に来ている人の姿もありました。治療内容などは医師の診断を経て決められるのでしょうが、私はプールで遊んだだけでしたので、ここの温泉の治療内容、効能については存じませんのであしからず。)

 はい、この日のプール。(もう温泉とは言いません。)

     

 屋外なんだ・・・とここで初めて知る。これまでに経験した温泉は室内で、受付というか支払を済ますと、バスローブからビーチサンダル、スイミングキャップなどを受け取り、着替えをするシステムだったので、そうかと思ったら、お金を払ったらすぐ外に放りだされた感じ。

 ちなみに着替えの場所もなく、はて?と困った。たくさん並んでいた着替えに使うのであろう小屋にはどこも鍵がかかっており、ということは、これもお金を払って自分専用の着替えの部屋を借りて、そこで着替えをし、荷物を置いて鍵をかけるシステムだったのだろうけど、お金を払うのも、戻ってその鍵をもらうのも面倒くさかったので、かたっぱしから着替えの小屋のドアをガチャガチャさせ、誰も借りていないのであろう鍵のかかっていない小屋を見つけ出し、そこで着替えた。おばさんになれば、何だってできる。

 プールは大きなのがいくつもありまして、プールとは言えど、匂いだけはしっかり温泉。すごい硫黄くさいんです。足だけつけてみると、ひゃーーっ!冷たい!温泉ではなく、なんと冷泉だった、とここでも訂正が入ります。

 でも雰囲気はそう悪くないんですよ。

     

 ね?日本のプールよりは、リゾートな感じでしょ?

     

     

 来ている方々も、ローマ近辺にお住まいの方ばかりとお見受けしましたが、みなさんとても良い意味で庶民的なのです。食べる物も飲み物も持参で(!)、お昼になると、たくさんの人がタッパーに入ったパスタをおもむろに取り出し、バクバク食べ始めるのですね。中にはものすごく大きなタッパーに大量のパスタを作ってきたお母さんも居て、それを家族全員分のプラスティックの皿につぎわけ、おうちの食事さながらなご家庭も。いやあ、今まで行った温泉ではちょっと考えられない光景でした。一応バールみたいなお店があるので、私はパニーニを買ってお昼にしましたが、ホテルの朝食で作ったパニーノ持参が、ここでは正解のようでありました。

 ちなみにたくさんの人が列を作って水を汲んでいる蛇口があり、「そうか!飲める温泉か!」と思って私もみんなに習ってその列に並び、念のため、「この温泉、飲めるんですよね?」と訊くと「温泉ではないよ。」とのこと。じゃあなんで?と思ったのだけれど、ただ単に、冷たい水が飲めるから、という理由で並んでいるのだそう。どこまでもお金をかけない人たちね。(結局、私もその水を飲みましたが。)

     

 子供はプールで騒ぎ、大人は芝生に寝そべって・・・なんか不思議な光景が目の前には広がり、「こんな場所があるんだなあ・・・」と、夢のなかの出来事か?と錯覚しそうでしたが、これもれっきとしたヴァカンス、イタリア人の生活とはホントに奥が深いものだなあ、と思わずにはいられませんでした。

 ローマの街中に居ては想像もできませんが、ほんの一時間ほどでこんなにのんびりできるのですから、少し街を離れてみるのも良いかもしれません。とはいえ屋外プール、この季節はもうやっていないでしょうけれど。

 こうして半日のんびりと日光浴したり泳いだりしたあと、帰りの自分の身体がウソみたいに軽いのでびっくりしました。水泳に開眼することができた、私にとっては忘れられないバーニョ・ディ・ティヴォリです。