風・風・風のトリエステ

 さえない旅のお話がつづきます。

    

 表紙にこんな絵のついた本が売られているのだから、やっぱりトリエステの風は普通じゃないのだわ・・・

 あのさ、人のせいにしてはいかんが、誰か一人くらい書いとけよ、トリエステの風は、ハンパじゃないってことをよ。と、愚痴のひとつも言いたくなったほど、トリエステで私を悩ませたのは、風の強さでした。どの人のブログや旅の思い出話も、うつくしくきらめく海、ちょっぴり東欧の雰囲気をかもし出す街の風景、そんなきれい事ばっかりが書かれていて、もっとネガティブな要素である、そしてとても無視することのできないこの風のことを、どうして誰も書かないのか、と、ま、これは私の八つ当たりで。それともまだ夏の時期に、そんなに強い風に苦しめられるなんて、私はよっぽどお天気に見放されたおっさんですか?

 トリエステには冬、ボーラという風が吹くのだそうです。トリエステにボーラが吹いた、と、イタリアのニュースで報じられるくらい、それは有名な風だそうです。話では、風速70メートルという大風だそうで、と言っても、風速70メートルの風というのが、どれほどの威力を持っているのかわからないし、経験したくもありませんが、思い出すのは先月のこと。沖縄に史上最強クラスの台風がやってくる、みなさんがこれまでに経験したことのないほどの風が吹きます、と大騒ぎしていた予報で、風速70メートルと報じていましたから、台風がしょっちゅうやってくる沖縄の人々をもってしても経験したことがない風、ボーラが、トリエステには毎年、何度か吹く、ということらしいです。(長かった。)

 で、私の行ったのは9月の初めで、もちろんボーラが吹く季節ではなかったのだけれど、だからあの風は全然ボーラではないのだけれど、それでもじゅうぶん「ちょいボ」くらいはいってたんじゃないかと、私は思います。そしてこれは私のまったく個人的な想像にすぎませんが、私のいうちょいボは、トリエステの人にとっちゃあ日常茶飯事のことで、取るに足りない、「あんなもんにガタガタ言うとったら、ボーラが吹いたらあんた、飛んで行ってしまいまっせ。」という、トリエステはそんな風・風・風の街ではないかと思います。

 それでも充分、ちょいボはすごかったです。前日のこと。トレヴィーゾゲリラ豪雨にやられ、その雨のせいか気温がぐっと下がり、寒くて寒くて、カーディガンなんか羽織ったところで全然足りなくて、ガタブル状態。仕方なく、オヴィエッセ(スーパー系の安い服とか売る店)でウールのセーターを購入。これでどうにかしのげるかと思いましたが、トリエステに着いて、あのちょいボに出くわせば、セーターなんかじゃこれまた足りません。街ゆく人も、もっと分厚いジャケットとか、コートっぽいのを着ています。ここでも仕方なく、風も雨も通さない素材の、薄手のコート(安物)を購入。ウールのセーターに薄手のコート、これが9月初めのトリエステでの恰好でした、ということを、私はここにきっちり書いてお伝えしたいと思います。

 こうして今回も、私の旅支度は失敗に終わりました。何枚も持って行ったTシャツを、せっかく持って来たのだから、意地でも全部着てやろうじゃないかと、とっかえひっかえ無理やり着ておりました。←下着替わりとして、しかムリでしたけどね(泣)


      

 ここが街の中心、イタリア統一広場。
 トリエステの歴史は複雑で。というのも国境に接する街では、こういう運命をたどるのは、よくあることなのでしょうが、ここトリエステは昔から、ローマ、アクイレイア、ヴェネツィアの支配を経て、14世紀後半からは、オーストリアの保護下に。海を持たないオーストリアにとって、このトリエステの港はどれほど貴重なものだったことでしょう。この街がイタリアに併合されたのは、1918年だそうですが、精神的にはイタリア人でありながら、オーストリア・ハンガリー帝国なんぞに支配されていた頃の人々の心の苦しみや、気持ちの複雑さは、私なんかに想像できるものではありませんが。

 というわけで、上の写真の広場も建物も、どこかウイーン風でございましょう?(←って、ウイーンに行ったことはないんだけどね、ぶはは。)てか、空がこういう色してて、オーストリア人が作った建物が建っていたら、どこだってウイーン風になるのかもしれませんが。

     

 モーロ・アウダーチェ。日本語なら、「勇者の埠頭」と訳すのが語呂が良い。と、誰かが本に書いてました、ので従いました。
いつもは人々が憩うこの埠頭にも、この日は人の姿がありません。当たり前です、あんな風の日に、こんなところに立っていたりしたら、あっという間に海の中です。

 写真が少ないのは、風が強くて、とても街歩きも観光もする気になれなかったからで〜す。あの風の中では、地図なんか広げようにも広げられないし、広げたところで、パーーーーン!!!風を広範囲に受けて、破裂してしまいます。大袈裟ではなく、本当にそれくらいどうしようもない大風だったのです。

 そういえば電車で隣に乗り合わせたシニョーラが話してくれたけど、それでもトリエステの人たちはボーラを、とても愛しているのだ、と。「私の友達なんか、ボーラの吹く日は窓を開けておくんですって。そうすれば家の中の掃除ができてしまうからって。」うーん、ホントかなあ?

 お嫌でなければ、また次回もトリエステの旅、お付き合いください。